「少年法」は甘い? 処罰感情は当然だが…少年院収容者4割が虐待を経験 「育てなおし」必要性説く専門家

8/19(水) 18:45

特集です。
犯罪や非行に手を染める少年たちの中には過去に虐待を受けた経験がある人も少なくありません。少年たちの更生の道筋として”育てなおし”の必要性を説く専門家を取材しました。

交際していた女の援助交際=いわゆるパパ活相手の男性を脅して現金を奪おうと企てた、当時16歳の少年。
その少年に”3万円の報酬”を持ち掛けられ、計画に加担した、当時18歳の男。
2人は去年4月の夜、府中町の公園で、男性に暴行を加えて殺害した後金品を奪ったとして逮捕・起訴されました。

先日、広島地裁で開かれた2人の裁判員裁判。
争点となったのは、「凶悪事件を起こした10代の2人に刑事処分を科すか、それとも、少年院での保護処分とするか―」広島地裁は、「刑事処分が相当」として、少年に懲役20年、男に懲役18年の実刑判決を言い渡しました。

2人のうち、男の弁護側の証人として出廷した、福山大学の中島学教授。
少年院や刑務所のトップを務めた経歴を持ち、犯罪学の専門家である中島教授が、法廷で、男の更生のために必要だと主張したのが、”育てなおし”です。

【福山大学・中島学教授】
「対象者は「育てられていない」という前提。幼少期の試し行動、反抗だとすると2歳児3歳児だと思ってもう1回そういったところから1つずつの成長の課題を一緒にクリアしていこうというのがまさに育てなおし」

中島教授は、男が控訴して審理が継続しているため、面会の内容や判決の受け止めなどについては話せないとしたうえで、育てなおしの意味と意義を多くの人に知ってほしいと、インタビューに応じてくれました。

中島教授が法廷で語った内容によりますと、男は、幼少期に両親の殴り合いのけんかをよく目撃し、小学校低学年からは養育者が頻繁に代わるといった環境の中で育ったといいます。
その体験によって心理的に脆くなり、自分で正しい判断ができなくなったことが犯行につながったとしたうえで、「育てなおしによる改善が可能」だと主張しました。

【福山大学・中島学教授】
「罰を与えれば本人がいい子になる。刑務所に入ればまっとうな人間になって帰ってくるなんてことはある種の幻想であって、個人に責任がないとは言いませんが、環境がそうさせているものはものすごく大きい。その環境をどういう風に変えていくのかが非常に大きな課題」

育てなおしの現場の1つである、広島少年院。
おおむね15歳から20歳のおよそ80人が収容されていて、社会復帰に必要な生活態度や学力のほか、就労に必要な能力などを身につけさせます。

【広島少年院・砂田首席専門官】
「例えば何らかの理由で中学を行っていなかった在院者がいるとすると中学で学ぶべき基礎学力、対人関係のあり方、その他を学びなおすということは非常に大切だと思っています。学力がなければ職員とともに1から教えていくという過程が少年院では行われています」

広島少年院では、虐待経験など、成育環境に問題がある少年に対しては、同じような境遇の人同士で話し合うグループワークを行っています。

国の統計によりますと、全国の少年院の収容者は減少傾向にある一方、虐待を受けた経験がある少年の割合は年々増加していて、全体の4割以上にのぼっています。

【広島少年院・砂田首席専門官】
「親との関係について悩んでいる子がグループワークを通じて、本人なりに考えたことを(これまで)自分が伝えきれなかった思いを改めて両親に伝えたという子もいるので、彼らもいろいろ考えて変わった部分はあると思います」

更生に向けた処遇が進められる一方、被害者などが少年に対して抱く、”処罰感情”があるのは当然で、向き合い方については社会の理解が欠かせないと中島教授は認識しています。

【福山大学・中島学教授】
「「少年法が甘い」「人を殺したなら死刑だ」ということになるのは…当然そういうお声があるのはわかりますけど。一方で脱皮していないんです、幼虫のままですから。それをどういう風に脱皮を手助けするのかが育てなおしのポイントではないかと思う」

成育環境が大きな要因となって犯罪や非行に手を染めた少年の「心の傷」が癒やされないまま再び犯罪を起こし、新たな被害者が生まれる…その”負の連鎖”を断ち切るために、少年院などで育てなおしを経験する事は重要であると、中島教授はいいます。

一方で、犯罪者を生まないための成育環境を社会でつくりあげる努力も必要とされています。

■オマールエビのジレンマ

(加藤キャスター)
この「育てなおし」ということに関して、吉永さんも法律の専門家ですが、どのようにご覧になっていますか。

【広島大学法学部長・吉中信人教授】
その通りですね。犯罪学、非行学では、このことは通説なんです。
今、脱皮ということを言われていたが、非行学では「オマールエビのジレンマ」という言葉があって、甲殻類が大きくなっていく時に殻を新しくしていかないといけない。その時に外敵に狙われるので、すごく攻撃的になってしまう。飼育環境がしっかりしてなかったり、しっかりした環境が整えられていないとか。育て直しをしていくという意味では非常に重要なことです。

他方で、ただ、被害者の感情とか結果の重大性とか、今回の場合、事件の場合は共犯者とのバランスということもあって、刑事裁判では、そちらの方も考えていかなくてはいけないということがある。

それからもう一つは、刑務所での処遇も、今は罰だけではないので、そこで仮釈放も早くなるという可能性もある。その辺りも考えていきたい。

(加藤キャスター)
拘禁刑の導入もありましたし、再犯防止は社会の大きな課題であるわけですから、しっかりと社会全体で考えていく必要があると言えそうです。