子育てアドバイス

【よくある相談シリーズ】うちの子、学校の支度が自分でできません。

みなさんは、子どもの頃、学校の支度が自分ひとりできちんとできていましたでしょうか。「自分もよく親の手を煩わせていたなぁ」と苦々しく振り返る方もいらっしゃれば、「自分は親に促された記憶すらないけどなぁ」と支度が自分でできない子どもの感覚がわからない方もいらっしゃるかもしれません。

「自分ひとりで学校の支度ができない」というお悩みは、今も昔もよくある話です。「毎日のことなのに、何度もせっつかないとやろうとしない」「毎回指示や確認が必要」「一体いつになったら、何も言わなくても自分ひとりで学校の支度をしてくれるようになるんだろう」と頭を悩ませている声をよく聞きます。「本人に任せると忘れ物をしてしまうので、結局毎回一緒に準備をすることになる」「いつも登校ぎりぎりになって焦って用意するので、ついイライラして叱ったり、手を貸し過ぎてしまったりする」といったお悩みに共感を覚える方も少なくないかもしれません。

しかし、こうしたお悩みがSNS等を通じて広く共有されるようになると、学校の支度が自分でできない子どもの中には、そうしたことがとても苦手なタイプの子どもがいることも一般に知られるようになり、近年では、支援ツールや便利グッズ等を用いて困難な部分を補ったり、本人のやる気を引き出したりして、自分でできるようにしていこうという考え方が世の中に浸透してきているように思います。

こうした社会の変化を背景に、最近では「お仕度ボード」などの名称で様々なタイプの支援ツールが市販されているようです。しかし、「うちの子にはまるで効果がなかった」「使いこなせず無駄になった」「良さそうに思えたのに結局はあまり長続きしなかった」といった失敗談も聞きます。それらを使っても、うまくいくケースとうまくいかないケースがあるのはなぜでしょうか。
ポイント❶
子どもの現状に応じて、自分で取り組みやすい環境を整えること。

一概に「学校の支度が自分でできない」と言っても、促したりせっついたりすれば自分でできるけれど、自分からはなかなかやろうとしないレベルなのか、支度に必要な手順や段取り等がそもそもわかりにくいために行動できない状態で、自分ひとりでするとミスや抜けが多くなってしまって忘れ物にもつながるので、見守りやサポートが必要なレベルなのか、子どもの生まれもった特性や年齢等によっても、様々な状況が考えられます。そのため、まずは子どもの現在の状態や特徴、苦手なことなどをしっかりと見極めた上で、その子に最もあった方法でサポートしていくことが重要です。

一般に、多くの子どもに広く有効な方法として、支度の手順を絵や写真なども使って視覚的にわかりやすく示したり、用意する物をチェックリストで示したりして、するべきことを「見える化」する方法が知られています。「見える化」することで、できた実感が得られやすくなり、自分でやろうとする意欲にもつながるので、最近は支援ツール等も数多く出回っていたり、インターネット上で作り方が紹介されていたりするわけです。ただし、様々な仕様があるため、その子に合わないタイプを選んだり、合わない使い方をしてしまうと、まるで効果がないばかりか、かえって子どもを混乱させてしまうこともあるので、注意が必要です。

特に、やるべきことの絵や文字が全部一度に示されていて、その中から毎回自分で必要なものを選んで実行しなければいけないタイプは、手順を一つひとつ順番に示さないと行動しにくいタイプの子には向かないでしょう。また、年齢的に幼い子や、もともと手先があまり器用でない子の場合には、できたらその項目のマグネットを裏返すタイプは、裏返すことがうまくいかないためにつまずいてしまうこともあります。少し手間はかかりますが、その子に合うものを手作りしたり、市販品を用いる場合も、子どもの年齢や特性に合わせて適宜アレンジしながら使用するようにしましょう。とりわけ、現在、医療機関で診断を受けていて、既に専用の視覚的支援ツールなどを使用している場合には、勝手に異なるツールを併用するのは望ましくないので、必ず主治医に相談するようにしましょう。

また、途中で他の事や物に気をとられて最後までやり遂げられない傾向がある子の場合には、余計なものに気をとられない空間で準備ができるよう、あらかじめ周囲の環境を整えておくことも重要です。できるだけ狭い範囲の移動で必要なものがそろうように収納を工夫し、取りに行って戻るまでの動線上に気が散るものを置かない配慮が必要でしょう。特に、日頃から使ったものをいろんな場所に放置してしまうクセがある場合や、その時々に適当な場所に片付けてしまうことが習慣化している場合には、必要な物がどこにあるかわからないために毎回探すのに時間がかかってうんざりしてしまい、途中で投げ出したり、長続きしなかったりすることもあります。

何も完璧な収納を目指す必要はなく、それぞれのご家庭にあったスタイルで、ほんの少し、次のような点を意識してひと手間かけておくと、子どもにとっては格段に取り組みやすくなるはずです。体操服やリコーダーといった日頃よく使う物については一定の区画にまとめて、それぞれの定位置を決めておき、ラベルづくりの手間をかけられない場合にもその物を表すシールを収納場所に貼っておくなどして、どこに何があるのか子どもが自分で把握できるようにしておきます。子どもと一緒にラベルづくりをしたりシールを貼ったりして、収納するところまでを親子の共同作業にすれば、親子のコミュニケーションの時間となり、大人も負担感が減って、子どもも楽しみながら定位置を覚えることができると思います。あとは、親子で、使用後や洗濯のあとは必ずその場所に収納するというルール決めて、それを守るようにしましょう。

そして、学校の支度を習慣づけるためには、トイレのあとの手洗いや、朝晩のはみがきなどのように、特に意識しなくても自然に行動できるような日常のルーティンのひとつにしてしまうことが重要です。いつも同じタイミングで、決まった手順で行えるようサポートし、その子の日常のいつもの習慣のひとつにしてしまいましょう。焦らず、ステップを踏みながら、はじめのうちはそばで見守ったり、できているかを確認したりして、うまくできたらそれを一緒に喜び、十分にほめてあげるようにしましょう。また、失敗しても叱ったりせず、根気強く励まし、つまずきに応じてツールやグッズ、手順等を見直して、その子としっかりコミュニケーションをとりながら、その子にとって最適なやり方に修正していくことも重要でしょう。はじめは手間暇がかかるように思うかもしれせんが、そのステップを経ることで、子どもはできる喜びを十分に味わい、自分でやれる自信もついて、次第にひとりでも取り組める習慣として定着していくはずです。
 
また、支度の段階以前に、そもそも学校で、翌日の時間割や持ってくるもの、宿題などを連絡帳にメモしてくる段階でつまずいている場合には、科目や持ってくるもののリストをプリントしたものを連絡帳に貼り付けて、リストに○をつけるだけでよいようにして、リスト以外のものだけをその他のところに書き込めばよいようにしておくなど、必要な情報をきちんとメモしてくることができるような工夫も必要でしょう。学年やクラスによっては、自分で書きとる練習が求められている場合もあるので、あらかじめ担任の先生にも事情を話した上で、協力を求めておくとスムーズかもしれません。最近は、1週間分の時間割が事前に配布される学校も増えているので、その時間割を子どもの目線で確認しやすい位置に貼っておくようにするといった工夫も有効でしょう。
ポイント❷
その子にとっての困難を見極め、
気持ちに寄り添いながら根気よくサポートすること。

「自分は、このくらいの歳には、親から促されなくても自分で支度ができていた」という方ほど、子どもができなかったときのストレスは大きいのかもしれません。あるいは、きょうだいのうち特定のお子さんだけがなかなか自分で支度ができない場合も、「どうしてこの子だけ…」と悩ましく思われることもあるようです。しかし、本人に自覚を促そうと、親やきょうだいの例をあげて、「○歳の頃にはできてたよ」などとプレッシャーをかけることは、あまり望ましくありません。その子の自尊心を傷つけ、自己肯定感を低めてしまう可能性があるので、避けたほうがよいでしょう。親子でもきょうだいでも、得手不得手には個人差があります。たまたま親やきょうだいたちにとっては苦も無くできることだったとしても、その子にとってはとても苦手な場合もあります。自分でしようとしても手順や段取りがわからないために行動できないタイプの子どもに、「学校の支度はもうしたの?」「早くやりなさい」といった言葉だけで行動を促そうとしても、たいていうまくいきません。度重なると、できない自分に劣等感や罪悪感を抱くようになっていく場合もあります。その子の抱えるしんどさを実感できない時ほど、その子にとってはそれが困難なことであるという事実を受け止め、苦手な子が自分でできるための支援ツールの活用や工夫、習慣づけ等の必要性を理解し、習慣づくまで寄り添って一緒に頑張る根気が必要となってくるでしょう。

このとき、苦手なこともぴったりくる対策も、一人ひとり少しずつ違うことを心に留めておくことが重要です。少し時間はかかりますが、まずは、その子がひとりで学校の支度をするために必要なことや手順を洗い出し、日頃のその子の行動や傾向から、その子にとっては、その中の何がどんなふうに苦手なのかを見極め、苦手な部分をうまくカバーできるような仕組みや環境を整えていくことが必要です。その上で、焦らず、少しずつステップを踏みながら、自分ひとりでできるようになるまで徐々に習慣づけていくようにしましょう。
ポイント❸
小さな達成感を大切にして、
意欲を持ち続けられるように親子で楽しむこと。

日々の習慣として長く継続していくためには、子ども自身がやってよかったと感じること、モチベーションの維持がとても重要です。大人にガミガミ言われずにスムーズに支度ができるようになれば、それまで悩みだった忘れ物が減るなどして自信につながり、それがさらに継続する意欲を生むようにもなりますが、はじめは、日々の小さな達成感を喜びにして続けていくことが重要です。その日の準備を終えたら、カレンダーの日付をペンで消していくだけでも達成感につながるでしょう。ひと手間かける余裕があるなら、毎日行っている項目ごとに○をつけていける表などを用意して、週ごとの達成率を出してもよいかもしれません。その週の達成率を出して「見える化」すると、達成率を上げたくなって、意欲につながる場合があるからです。また、あらかじめ準備にかかる目安時間などを把握しておき、子どもの目につくところに時計を用意するなどして、予定時間までにできたことや、かかる時間が減ったことをほめたりすることで、モチベーションを高める方法もあるでしょう。さらには、子どもによっては、慣れてきたら、どこまでタイムを縮められるか計るといった工夫もできるかもしれません。

また、意欲を持続するためには、その子にとって続けやすいタイミングの見極めも重要でしょう。その子の「やる気スイッチ」がオフになっているタイミングではモチベーションがあがりにくく、1日、2日は頑張れても、長続きしないかもしれません。例えば、寝る準備をする前に明日の支度をするよう習慣づけようとしても、入浴や夕食のあとしばらくの間くつろいでしまっていると、眠気も出て、やる気が湧きにくくなっているかもしれません。翌日の学校の支度が終わってから夕食にするなど、何か楽しみなことの前に済ませるようにするといった工夫をしてみると継続しやすくなるかもしれません。ただし、前日から準備できるものもあれば、朝にならなければ準備できないものもあるため、子どもの特性や年齢、苦手なことによっては、あらかじめ前日の支度と朝の支度とを分けて、それぞれの手順やリストを整理しておいたり、それぞれの最適なタイミングを見極めておいたりする必要もあるでしょう。

紹介したような「見える化」するためのツールやグッズの使用やちょっとした環境整備、タイミングを見計らっての習慣づけ等が功を奏し、すぐにうまくいく場合もあれば、その子の苦手なことの内容によっては、いろいろと試行錯誤が必要な場合があるかもしれません。そんな時も、できるだけうまくいったことやできたことに目を向けるよう心がけ、自分でできることが一つひとつ増えたり、かかる時間が次第に短くなっていったりすることを日々一緒に喜びながら、親にとっても子どもにとっても苦にならないよう、焦らず気長に取り組んでみていただければと思います。親子で自分たちにぴったり合う最適のやり方を模索し、その子の特性や育ちに合わせてカスタマイズしていく過程も楽しみながら、根気強く取り組んでみてくださいね。
加藤美帆
広島女学院大学 人間生活学部
児童教育学科 教授
一般社団法人
日本ホスピタリティ教育研究所 理事
博士(教育学)修士(心理学)
専門分野:発達心理学、教育心理学

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