子育てアドバイス

【よくある相談シリーズ】うちの子、「学校に行きたくない」と言い出しました…。


子どもから「学校に行きたくない」と言われたら、ましてやそれが出勤時間の間際だったりすると、困ってしまいますよね。それが何度か続けば、朝のひとときが、子どもにとっても親にとっても苦痛な時間となってしまうかもしれません。

今回は、子どもが「学校に行きたくない」と言ってきた時のアプローチの仕方を紹介しつつ、学校との協力体制を築くために心にとめておくとよいことや、さらには「学校に行かない」という選択肢についても考えてみたいと思います。

 


●その「学校に行きたくない」は、どのレベル?

誰にでも経験のあるような、何となく今日はしんどいなぁと思うくらいの一過性の「行きたくない」であれば、子どもの気持ちをちょっと引き立ててあげるだけで解決するかもしれません。

しかし、なだめすかしてどうにかこうにか登校させたら、案外何事もなかったかのように帰ってきてくれてほっとしたのも束の間、翌朝あるいは数日後にまた再び「行きたくない」が始まって、頭を悩ませているといったケースもあるようです。

無理強いして学校に行かせるのはよくないと聞くけれど、「行きたくなければ行かなくていいよ」といつでも受け入れていたら、怠け癖がついてしまうのではと不安になる、このまま不登校になってしまうのではといった声もよく耳にします。

 


●“登校しぶり”から「不登校」「引きこもり」へ。

子どもが何らかの理由で学校に行きたがらない状態は、“登校しぶり”と呼ばれます。この“登校しぶり”は、一般に新学期がスタートして間もなくの頃やゴールデンウィーク明け等に見られやすい現象とされていますが、この“登校しぶり”の状態が長引いた結果、「不登校」となる場合があることも知られています。

2018年の文部科学省の調査によると、小・中学校における不登校児童・生徒の割合は1.7%でした。1.7%と聞くと、一見それほどでもないような印象を受けるかもしれませんが、実に164,528 人もの小・中学生が何らかの理由で「不登校」となっているわけです。

「不登校」の原因としてすぐに思い浮かぶのは、いじめや学習面でのつまずき等かもしれませんが、近年では、学業不振や学校での人間関係といった学校の要因だけでなく、家庭や本人など様々な要因が絡みあって「不登校」に至ることが知られています。

また、この「不登校」が長期化することで、そのまま「引きこもり」に移行していくケースもあります。こうしたことから、できるだけ“登校しぶり”の段階で適切に対応して、長期化を防ぐことが重要です。

 


●“学校に行かせること”に必死になるのではなく、
 心のエネルギーを充電できるような関わりを心がけ、
 自然に登校へ心が向くように働きかけよう!


 

では、“登校しぶり”を長期化させないためにはどんなことに気をつけたらよいのでしょうか。

このまま「不登校」になってしまったら…という不安がよぎって焦り、むやみに励ましたり大声で叱ったりして、かえって本人の登校意欲を削ぐ結果になってしまったという失敗や、学校でいじめにでもあっているのだろうかとあれこれ思いをめぐらして、心配のあまりいろいろ問い詰めてしまった結果、親子関係が気まずくなってしまったという苦いエピソードをうかがうこともあります。

子どもから「学校に行きたくない」と言われた時、ただやみくもに“学校に行かせること”だけに必死になったり、子どもの気持ちやプライドを無視した形で原因探しに躍起になったり、あるいは勝手な憶測で子どもを責めたりすることはあまり望ましくないでしょう。

“登校しぶり”の原因も、「不登校」の原因と同様、これと言った明確な理由が見当たらないことも多く、また学校についてのことだけが原因とも限りません。本人の傾向や親子・家族関係など家庭の問題等も複雑に絡み合って、結果的に“登校しぶり”につながっている場合があるのです。

そうした場合は、本人も自分の気持ちがはっきりと捉えられていないので、「学校に行きたくない」原因や理由を誰かにうまく説明することがなかなかできないのです。

いずれにしても“登校しぶり”は、何らかのストレスに苦しんでいたり、問題を抱えていたりすることを示すサイン、子どもから発されたひとつのSOSとして捉えることができます。

そのため、子ども自身にも言葉にすることのできない、内なる言葉に耳を傾けようとすることなく、あるいは気づかないままに、ただ無理やりに学校に行かせようとそれだけを焦っても、思うような結果にはつながらないばかりか、かえって長期化を招いてしまうことさえあるのです。

「学校に行きたくない」がちょっとした一過性のものなのか、それとも意外と根深い問題をはらんだものなのかを見極める目も必要かもしれませんが、いずれにしても、“登校しぶり”をしている状態の子どもは、その日学校に行くだけのエネルギーが不足した状態になっていると言えるのではないでしょうか。にもかかわらず、叱責したり、叱咤したり、質問攻めにしたりでさらなるストレスをかけてしまうと、さらにエネルギーが不足してしまうことにもなりかねません。長期化を避けたいと考えるのであれば、エネルギーをさらに奪うのではなく、補うような関わりの方が望ましいでしょう。

日常的に、子どものストレスをやわらげる関わりを続け、家庭が子どもにとって心のエネルギーを十分に充電できる場にすることで、子どもが自分で困難に立ち向かったり、ネガティブな出来事を乗り越えたりしていける活力を蓄えられるようにすることが大事です。ある程度、心のエネルギーが蓄えられれば、ちょっとしたきっかけや促しで、しんどいことを乗り越えるパワーが出せるでしょうし、登校にも自然に心が向かっていくのではないでしょうか。

子どもが心のエネルギーを充電できるような関わりは、単に子どもの要求を何でも受け入れるとか、いわゆる甘やかしを行うことではありません。子どもが学校に行きたくなるまでただ漫然と待つというのとも異なります。

また、夜遅くまでスマホやゲームをしているなど不規則な生活をしていたり、偏食等で栄養が偏ったりしているなど、生活面での何らかの乱れも見られる場合には、バランスの良い食事や十分な睡眠等、規則正しい生活を心がけることで心身の健康を保ち、エネルギーを消耗しにくくかつ回復しやすい生活に変えていくことも重要でしょう。十分に子どもの心のエネルギーが充電されてくれば、子どもの変化を通してそれが感じられるはずです。その時に、子どもの興味・関心や性格・特徴等にあわせた形で、自然に学校に気持ちが向くようなちょっとしたきっかけを与えてあげられるとよいでしょう。


 

●学校や教師と対立するのではなく、
 お互いにできるだけ協力し合おう!

 

“登校しぶり”を何とかしようと学校に相談したところ、担任の先生が子どもだけでなく保護者の苦悩にも寄り添ってくれたという声もあれば、取り立てて効果的な策は講じてくれず苛立ちがつのったとか、かえって家庭での養育の在り方についての問題を指摘されてひどく落ち込んだという声も聞きます。

子どもにも、大人と同じように外の顔と内の顔があり、学校でしか見せない姿や、反対に、家庭の中でしか見せない姿があります。保護者も教師も、ともすれば日頃自分が目にしている一方の面に偏って子どもを捉えてしまいかねないのですが、互いを信頼して自分の見ている子どもの姿を伝え合うことができれば、自分が日頃あまり知ることのなかった子どもの一面等を知ることができ、子どもの全体像がつかめてきます。それによって、子ども自身でも気づいていなかった問題の本質が見えてくることもあるのです。

しかし、学校に何らかの問題があるのではと疑いながら不信感をもって学校を見ていれば、教師から学校での様子を聞くことも難しくなり、たとえ聞いたとしても、それをそのまま信じることは難しいかもしれません。

一方で、教師の方も、短絡的に親子関係等家庭の問題に原因を求めたり、保護者の関わり方等について頭ごなしに非難したりすることは避けなければなりません。また、教師にそのつもりがなかったとしても、複数の要因のそれぞれを把握しようとした結果、保護者からすると家庭に原因があるかのように扱われたと不愉快に感じ、学校や教師に対する態度が硬化してしまうといったこともあるでしょう。保護者や家庭に原因を押し付けようとしているのではなく、単に、様々な要因を見極めようとしているだけのこともあるので、そのような時には過敏に受け止めすぎないことも必要かもしれません。

“登校しぶり”や「不登校」において、原因が特定できる1つであることはむしろ稀で、多くの場合、複数の要因が関係しており、また問題の本質が非常に見えにくい場合もあります。保護者も教師も互いに相手に原因を求めて責め合うのではなく、互いの目を通して、自分の気づかなかった子どもの側面に気づき、子どもの全体像をつかむことで、思わぬ原因に気づけることもあるわけです。

もちろん、原因がよくわからないままでも、子ども自身が嫌がらずに学校に行けるようになればそれで問題はないので、原因探しに力を注ぐ必要はありませんが、結果的に問題の本質が見えてきたときには、子ども自身も、保護者も、学校も、そこから目を背けすぎず、また自分や誰かを責めることなく、しっかりと手を携えてその本質的な問題にゆっくりとアプローチすることができれば、将来的に同種の問題が生じる可能性を減らすことができるかもしれません。また、担任の先生との協力体制ができていれば、教師が保護者の相談にのってくれたり、子どもが登校に心を向けるようなきっかけづくりをしてくれたりして、ひとりであれこれ気をもむよりもかなりスムーズに運ぶこともあるわけです。

 


●どうしても行きたくない場合には、
 “学校に行かない”という選択肢も!


ここまで、どうすれば学校に行けるようになるかという話に力点を置いていましたが、一方で、「学校に行きたくない」理由が非常に深刻で、学校での人間関係等に明確な原因があるような場合には、転校して場や状況を変え、心機一転をはかるという選択肢もありえます。

また、自殺につながりかねないようなケースや、学校に行けないことへの罪悪感から心身の調子を崩してしまうような場合には、“学校に行かない”という選択肢もあり、周囲には、そうした選択肢を許容する大らかな態度も求められるのだと思います。

そもそも学校にはどうしても行かなくてはならないのでしょうか。学校には絶対に行くべきという考え方もあれば、できれば行った方がよいという考え方や、行きたくなければ行かなくてよいという考え方もあるなど、現代では学校教育に対する考え方も多様化しています。ユーチューバー等、かつてはなかった仕事の登場やAIの発達など、人の生き方や労働の在り方、希望する職につくまでのプロセス等も実に多様化してきており、今後もこうした傾向は加速していくのではないかと指摘する声もあります。

そうした社会の変化を背景として、学校に行くか行かないかといったことを含む学びの在り方についても、ゆくゆくは各家庭の教育方針に基づいて主体的に選択できる時代になっていくのかもしれません。また、親子や同じ家族の中であっても、考え方や方針は必ずしも一致しているわけではないため、どのような選択をするにしても、保護者の一方的な押しつけになってしまわないよう、親子でよく話し合い、子どもの心の声に耳を傾け、様々なことを勘案した上で、その子にとっての最良の選択にたどりつけるよう留意したいものです。

ただ、選択には、大抵どんな場合にもその選択に応じた何等かのリスクが伴うため、その短期的・長期的リスクについても十分に検討した上で、それらについてよく理解した上で選択をする必要もあります。ただ、それを納得の上で選択するのであれば、どうしても行きたくない場合には、“学校に行かない”という選択肢もありうるということなのだと思います。そして、“学校に行かない”という選択をした場合には、「学校」以外でどのような学びの在り方や生き方があるのかについて調べ、自らの道を見定めていく必要があるでしょう。


 
加藤 美帆
広島女学院大学 人間生活学部
児童教育学科 准教授
一般社団法人 日本ホスピタリティ教育研究所 理事
博士(教育学)修士(心理学)
専門分野:発達心理学、教育心理学

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