『心を満たす福祉下着』の開発に取り組む、車いすの女性に密着 健常者との間にある「気付かない壁」…広島

3/2(月) 20:00

車いすの女性が福祉下着の開発に取り組んでいます。
その中で、見えてきた社会が「気付かない壁」。
女性の新たな取り組みを追いました。

【新藤杏菜さん】
「誰にも見られない部分なのに、人の手を借りないといけないその姿に人間じゃなくなったような気持ちになって…」

ネイリストの新藤杏菜さん。
新藤さんは、2008年、免疫の異常が起きる膠原病の一種、全身性エリテマトーデスを発症。
その2年後、車いすでの生活を余儀なくされました。

【新藤杏菜さん】
「体の事で特につらかったのは排泄障害でした」

現実を受け入れるには、時間がかったという新藤さん。

【新藤杏菜さん】
「排泄障害になって尿取りパッド姿を毎日みる。その情けなさというか自信のなさがあった。その中でもおしゃれな下着を探して履くことで、障がいは治ることはないけど障がいを忘れられる。一瞬でも癒しになるものだと思った」

しかし、心を癒される福祉下着には、出会えませんでした。

【新藤杏菜さん】
「色でしかかわいさを出していないのかな。私の求めるおしゃれさセクシーさとは違う」

「障害があってもおしゃれがしたい」
新藤さんは、機能性とデザイン性を両立させた福祉下着の開発に乗り出します。
デザイン画は、新藤さん自らが描きました。
こだわったのはレース。

【新藤杏菜さん】
「レースって見るだけでもテンション上がる」

そして、去年、ついに試作品が完成しました。
レースの華やかさが目を引きます。
防臭や防水性の高い素材にこだわり、テープを柔らかくしました。
普通のショーツより工程が4倍多い福祉下着。
タッグを組んだのは大阪の大手繊維商社です。

【製作を担当する SAWAMURA 河上政慶さん】
「利益はあまり考えていない。どっちかというと新しいものを作っていくところに重点をおいている」

構想から2年、新藤さんの思いが形になりつつあります。
そんな中、うれしい知らせが届きました。
手がけた福祉下着が、日本デザイン振興会が主催するグッドデザイン賞に選ばれたのです。

広島市内の商業施設で開かれたイベント。
新藤さんの下着は、さらに進化していました。
しかし、ある問題も…。

【新藤杏菜さん】
「機能性などが定まってきたので(製造する)コストが分かったのですが、それが自分が考えていたのより倍になって…」

コストが上がれば価格も上げざるを得ず、利用者の負担が重くなります。
悩んだ末に、出した答えは…。

【新藤杏菜さん】
「今まで妥協して履きたくないからやってきたところを、そこを削るとそこはまた違うのかなと思って、自分の作りたいものを作ったらこの価格でしたという事を正直に伝えて」

新藤さんの目指す新たな福祉下着は、障がいのある人の「心を満たす」存在。
価格が上がる事が分かっていても、妥協できません。
新製品の開発費や運営費を確保するため、新藤さんは、新商品を値引きする先行予約販売を兼ねたクラウドファンディングを始めました。
産褥用のショーツや男性用の福祉下着など、まだまだ、作りたいものも、たくさんあるのです。

今年、1月、新藤さんの生活に、新たな変化がありました。
神奈川県にある大学から、講義の依頼が来たのです。

【新藤杏菜さん】
Q:何が伝わればいい?
A:あまり気付かない壁というか、そういうものがあるという事を考えてもらえる時間になったらいい。

新藤さんが訪れたのは、横浜国立大学。
この大学では、違いを個性として尊重し、多様性を活かせる取り組みを行っています。
新藤さんを招いたのは、大学で、インクルーシブ教育を講義する高野陽介先生です。

【横浜国立大学 ダイバーシティ戦略推進本部 高野陽介 講師】
「教育だけではなくて、幅広く社会で活躍している人にもゲストで来てもらって、その人たちの視点から考えるダイバーシティやインクルージョンを、ざっくばらんに話してもらう講義になると思います」

大学の教壇に立つのは、初めての経験です。
いつもと違って、固い表情。

【新藤杏菜さん】
「2人目の子供を出産後に、膠原病という病気になって、その後下半身まひになって排泄障害が残りました。麻痺になりたての当初は自分の障害を受け入れる事が難しくて、そんな中でおしゃれさのない福祉下着を選ぶ事も考えられずに、長い間、健常者の下着の中からパットのはみだしや機能性を妥協して選んで履くしかないと思って選んできました」

初めて知る、障がい者の現実。

【新藤杏菜さん】
「自分の姿がすごく情けなくて、女性としての魅力もなくなってしまった気がして、自信も持てなくなりコンプレックスを持ちました」

障がい者と健常者の間にある「気付かない壁」。
気づいて欲しい。
新藤さんは、思いを伝えていきます。

【新藤杏菜さん】
「障害があってもなくてもおしゃれをしたいという気持ちは同じです。健常者の人が履きたいと思えない下着を障がい者も履きたいと思わないし、年をとってもそれは変わらないと思います」

初めて触れる尿漏れパット。
新藤さんの下着もこれまで見たことのないものです。
新藤さんと学生たちの間で、質問や意見が交わされます。

【新藤杏菜さん】
「普通のショーツだったら(生地が)一枚という所を、一枚一枚はり合わせてという形自体が作るのに工程がいる」

知ることで、他人事だったことが、自分や社会の問題に変わっていきます。

【学生】
「レースがついているじゃないですか。それと布自体にプリントを施すのなら、どちらがお金がかかりますか?お金とコスト、時間も…」

他人事が自分事に感じられた時、学生たちに見えなかった壁が見え始めました。

【学生】
「当事者が困っていることを発信してくれないと理解は拡がっていかないと思うが、でもそこにハードルがある。発信する事自体にプレッシャーというか壁がある」
「自分の障害の事は発信しづらいし、こちらもデリケートでプライベートなことだから聞きづらい事なのでそこの壁がどうやったらなくなるかを考えないといけない」

健常者と障がい者の間にある「気付かない壁」。
この壁を乗り越えるために、今、新藤さんは、語り始めました。

【新藤杏菜さん】
「言えない人がいるという事を分かってくれたら気付いてくれる人も増えるから。当事者から言えない事は本当にあるので、周りの人が気付いてくれる事が一番選択肢が広がっていくために必要だと思います」

新藤さんの福祉下着は、今も、進化を続けています。
「心を満たす福祉下着」が完成した時、みんなで壁を乗り越えるそんな日が来るに違いありません。