「子供の代へ引き継がせたくない」処分に困る土地の所有権を国に… 知られざる「土地を手放す制度」とは

12/16(火) 19:07

特集は「シリーズ老いゆく社会」
今、親から相続した土地や先祖代々引き継がれてきた土地を生前に手放す人が増えています。
その背景には、おととし施行された新たな法律の存在があります。
現場を取材しました。

広島県庄原市総領町。
中山間地に建つ、立派な家屋。
しかし、よく見ると壁は一部、剥がれ落ち始めています。

【若木憲子記者】
「こちらの住宅なんですが、相続する人がおらず、おととしから国が管理することになりました。中を見てみますと空き家になって15年ほどたつということで、すでに屋根は崩れ落ち、床も穴が開いています」

土地の所有者が亡くなった2008年当時のカレンダーがかかったまま放置された住宅。アナグマが入った痕跡もあります。元の所有者には相続人がおらず、2年前に国庫帰属、つまり、国有財産となりました。
元の所有者がもつ土地はこの住宅を中心に畑や山林など19ヘクタールにも及びます。

【若木記者】
「こういう土地は今増えているんですか?」
【中国財務局 管財部 斉藤一真 統括国有財産管理官】
「増えてます。どうしてもこういう中山間に案件が多いので、売れるようなものなら民間に処分をしてもらうということもできるんですけど、まあ売れないので、最後は国に来ると」

このように相続人がいない土地もあれば、一方で相続が放棄される土地もあります。

広島市南区西本浦町の住宅街。

【若木記者】
「あの青い屋根の家ですか?」
【中国財務局 管財部 斉藤一真 統括国有財産管理官】
「(家までの)道路がなくて、これは(住宅に住む)皆さんが出されている私道」

車が通ることができない道幅の私道の奥にある住宅。1963年に建てられたといいます。

【中国財務局 管財部 斉藤一真 統括国有財産管理官】
「まあ売りにくいということでしょうかね。建て替えが難しいっていうのが多分あるんだと思います」

7年前に所有者が亡くなり、相続人が相続を放棄。
おととし、国有財産になりました。
家の中には食器や家具もそのまま残っています。

【中国財務局 管財部 斉藤一真 統括国有財産管理官】
「相続財産の中に、預貯金とか現金があればこういったものの処分をお願いして、何もない状態で引継ぎをうける。ということもあるんですけど、預貯金がない場合は現状のままで国が引き受け、ゆくゆくは、不用品は処分をするということになりますね」

相続人がいない。もしくは相続が放棄されて国の管理下に置かれる土地は年々増加しています。
県内では2023年度が126件、昨年度は43件に上ります。
しかし、これはほんの一握り。
その背景には無数の「所有者が分からない土地」が存在すると言います。

【中国財務局 管財部 斉藤一真 統括国有財産管理官】
「所有者不明の土地・建物といったものが増えていると我々は思っています。日本ではおよそ九州の面積相当(約410万ヘクタール)が所有者不明状態にあるといわれています」

こうした所有者不明の土地は公共事業や災害復旧事業、民間の開発などを妨げている現状があります。

所有者不明の土地の発生を予防するために、おととし、新たな制度が創設されました。
相続などにより、取得した土地の所有権を国に帰属させる相続土地国庫帰属法です。

これまでは相続が発生したときにしか相続の放棄はできませんでしたが、新たな制度ではすでに相続で取得している土地を手放して国の管理下に置くことができるようなりました。
権利関係に争いがある土地や担保権などが設定されている土地などを除き、土地所有者は法務局に申請でき、審査を経て、承認されれば土地の所有権を手放すことができます。
その際、申請者は10年分の土地管理費相当額を負担する必要があります。

制度が始まった2023年度の申請件数は63件、昨年度は56件の申請がありました。

呉市上畑町。
新たな制度を利用して、およそ100坪の土地を国に譲り渡した男性がいます。

【相続土地を国に譲り渡した男性】
「父がやはり私の祖父から相続を受けて。多分、終戦後は畑にしていたと思います。そのあとは父がアパートを建てましてね。20年ぐらい多分アパートがあったと思います」

20年ほど前に父親が亡くなり、アパートの管理をするようになったという男性。
自身は広島市に住んでいます。
アパートも古くなり、壊して駐車場として運用していましたが、団地の高齢化に伴い、利用者もいなくなったといいます。
手放したいと思い、不動産業者に相談し、売りに出したこともありましたが、買い手は現れませんでした。

現在、77歳。

【相続土地を国に譲り渡した男性】
「いつボケるかもわからないような年になりましたから。自分が元気なうちにここを始末しておかないと、子供も地元にいないから継がすわけにもいかないし」

相続土地国庫帰属制度を知り、広島法務局に相談し、手続きを開始。
申請に至るまで1年ほどかかったといいます。

【相続土地を国に譲り渡した男性】
「周りの土地との境界確定をはっきりさせないといけなくて土地家屋調査士さんにお願いしましたら、1カ所登記されている人がもう亡くなっていて、その人が、引き継いでいる人がどこの人かというのがなかなか分からなかった」

相続人を探し出し、境界線を確定させるのに時間を要し、最終的におよそ50万円の費用もかかったといいます。

【若木記者】
「50万円って決して安くないなと思うんですけど」
【相続土地を国に譲り渡した男性】
「自分で持っていても固定資産税ですとか、ここの草刈り費用、ずっと、かかっていくわけですから。それを思えば、どういうことないと思いましたし、次の代へ、子供の代へ引き継がせたくないっていうのが一番ですね」

さらに、男性の場合、向こう10年の土地管理費用相当額として、およそ100万円を支払い、土地の所有権を手放しました。

【相続土地を国に譲り渡した男性】
「私はすごくほっとしているんです。申請にかかる費用や負担金は結果論だと思っている」

新たな制度は所有者が分からず、管理できない土地が増えることへの対策の一助にはなりますが、国の財政を圧迫する要因にもなっています。

【中国財務局 管財部 斉藤一真 統括国有財産管理官】
「当然ながら国有地を管理していくには経費がかかります。現場の草を刈らなければとか、木が生えれば木も伐採します。そういった国の管理経費というのはどうしても増えざるを得ないと思っていますので、我々の現場では一番そこは課題」

超高齢社会を迎え、今後も増加が見込まれる土地の国庫帰属。
活用方法や効率的な管理方法の模索が続きます。

<スタジオ>
特集の中では、所有者不明の土地、日本では九州の面積に相当するとありました。驚きの数字でしたが、これ放っておきますと2040年には北海道の面積相当になるんだという見込みもあるということで、本当に他人事ではないなと感じました。