2025年9月11日(木)
【よくある相談シリーズ】毎日の朝ごはんに悩みます。どう乗り切れば?

小学生の子どもを持つ親にとって、朝の時間は慌ただしいものです。つい「パンだけで済ませてしまう」「時間がないからジュースだけ」となる日もあるでしょう。しかし、朝ごはんは子どもの一日の活動を支える大切なエネルギーであり、体と心を整えるために重要です。今回は朝食を無理なく取り入れる工夫を、管理栄養士の大須賀恭子先生に聞きました。

朝ごはんは“体と心のスイッチ”

一晩寝て起きた子どもの体は、前の晩からおよそ12時間、栄養を補給していません。この状態で学校に行っても、脳や体の働きは十分とは言えず、集中力ややる気が低下してしまいます。ちょっとした運動や学習にも力が入りにくく、体調を崩しやすくなることもあります。
朝ごはんは、そんな体と心のスイッチを入れるために大切です。食事をとることで血糖値が安定し、脳に必要なエネルギーが届きます。その日の活動や学習に必要な力が補われるだけでなく、体内時計もリセットされ、生活リズムが整いやすくなります。特に成長期の子どもは、体や脳の発達に必要な栄養を朝にしっかり補給することが、健やかな成長につながります。
さらに、朝ごはんをきちんととる習慣は、生活リズムや食習慣の基盤にもなります。子どもが自分で食べる意識を持つようになると、将来的に自分の体調管理や健康維持にも役立つのです。忙しい朝でも、ほんの少しの工夫で子どもがしっかり栄養をとれるようにすることが、親にとっても安心につながります。

栄養のバランスを意識しておかずのある朝食に

朝食で意識したいのは、ごはん・パンとおかずの組み合わせです。栄養素でいうなら炭水化物とたんぱく質とビタミン・ミネラル。パンなら卵やヨーグルト、ごはんなら納豆や魚、ウィンナーなどを組み合わせることで、子どもは一日を元気に過ごせます。炭水化物だけではエネルギーは足りませんし、たんぱく質があることで脳や体の活動を支える基盤がつくれます。
ビタミンやミネラルも必要です。これらもぜひ取り入れましょう。例えば豚肉や雑穀米、発酵食品などです。野菜はサラダにこだわらなくても、スープや味噌汁に入れれば十分。前日の野菜炒めや煮込み料理をそのまま出すだけでも栄養は補えます。毎日同じメニューでも構いません。2~3パターンをローテーションしながら、家庭に合った量や具材で調整すればよいのです。

味噌汁と手軽な一品で十分

味噌汁は朝におすすめの一品です。豆腐やわかめ、小松菜、じゃこなどを入れるだけで、たんぱく質やビタミン、食物繊維をまとめて摂ることができます。わざわざ鍋で作らなくても、お椀に具材と味噌を入れて熱湯を注ぐだけで十分です。具材は火の通りやすいものを選ぶか、あらかじめ野菜をレンジで加熱しておくと便利です。味噌も、粒を濾してなめらかにした濾し味噌を使えば、椀の中ですぐに溶け、手間をかけずに完成します。
「ふ」や乾燥わかめなどの具材も栄養価が高く、満足感を得やすいです。朝ごはん用に、前日の料理時間に、朝ごはん用の具材を少しだけ切っておけば手間も省けます。それらを加えるだけで、バランスの良い一杯に仕上がります。
忙しくて細々用意する時間がなければ、ごはんと味噌汁だけでも十分です。さらに加える余裕があるなら、焼き魚や卵焼き、味付けのりやふりかけを組み合わせましょう。納豆が好きな子であれば、それも立派な選択肢です。
朝ごはんは見栄えよりも栄養バランスが大切です。写真映えを意識する必要はありません。季節の果物を添えてもよいですし、前日の残り物を活用することで、準備の負担を減らすことができます。手軽で効率的な方法を知っておくと、朝食づくりのストレスも軽くなります。

肩の力を抜いて続ける朝ごはん習慣

朝ごはんは、子どもの体を動かす燃料であるだけでなく、心や学習の力を支える役割も持っています。生活習慣を育てる場でもあり、家庭で取り組むことが将来の習慣や次の世代につながります。
何度も言いますが、毎朝凝った料理を用意する必要はありません。無理なく朝食の習慣をつくることが、子どもの健やかな成長と一日の活力につながります。完璧を目指さず、無理をせず、罪悪感を持たないこと。肩の力を抜いて、朝ごはんのある生活を続けていきましょう。


- 大須賀恭子 広島国際大学 健康科学部 医療栄養学科 非常勤講師
- 広島県呉市内の小学校 7 校に41年間、栄養教諭として勤務。教育現場で子どもたちの食育と学校給食に携わる。2010年から2016年まで、広島県学校栄養士協議会会長、(公社)全国学校栄養士協議会理事を兼務。2020年より大学にて栄養教諭の養成にあたっている。
2025年8月4日(月)
【よくある相談シリーズ】被爆80年、子どもとの日常でどう平和を育めばよいですか?

毎年8月6日が近づくと、広島では平和について考える機会が増えます。戦争や原爆の悲惨さを知ることはもちろん大切ですが、それだけで平和が守れるのでしょうか。いま日本では、差別や孤立の中で苦しむ人が少なくありません。親として子どもに伝えたい平和とは何か。親が子どもとともに考えられる平和の姿を、「Social Book Cafeハチドリ舎」の安彦恵里香さんに聞きました。

平和とは「戦争がないこと」だけじゃない

平和教育というと、戦争の歴史や原爆の悲惨さを学ぶことが中心です。しかし、それだけでは何かが足りないと感じることがあります。
平和とは単に戦争がない状態ではなく、誰もが無条件に持つ人権が保たれ、その人らしく生きられる社会のことです。今の日本に目を向ければ、ヘイトスピーチや差別が蔓延し、2024年度の調査では約2万人もの人が自ら命を絶っています。とくに児童・生徒の自殺者数は過去最多の527人にのぼり、深刻な状況です。
多くの大人は「日本は平和な国だ」と言いますが、その裏で、差別や偏見、インターネット上の攻撃的な言葉、学校や家庭で居場所を失い苦しむ子どもたちがいます。戦闘こそありませんが、人権が守られない社会を平和と呼べるでしょうか。

「できるかどうか」で価値を決めない、子どもには無条件の愛を伝える

社会では、勉強や運動ができる子が褒められ、できない子は否定されがちです。しかし、子どもは何かができるかどうかに関係なく、大切な存在です。
「あなたは存在しているだけで大切だよ」。その一言が、子どもの心の平和を守る土台になります。子どもの自己肯定感は、「何があっても自分は大切にされている」という実感から育まれるものです。これがないと、失敗や挫折に直面したときに自分の存在そのものを否定してしまいかねません。
成績や能力でしか評価されなかった子どもは、人生でつまずいたとき、自分には価値がないと思い込みます。親ができる大切な役割は、「無条件の大切さ」を伝え、子どもが安心して成長できる土壌をつくることです。

子どもと一緒に考え、問い続けることの大切さ

子どもが平和について考える力を育てるために、親が「正解」を与える必要はありません。何事にも正解はありませんし、親だって答えを持っているとは限りません。
子どもに「なぜ戦争はなくならないの?」と聞かれたときは、「なぜだろうね。一緒に調べてみよう」と返してみてください。問いを持ち、歴史やさまざまな意見に触れ、自分なりの考えを育む環境をつくる。それが平和を「自分ごと」として考える力を育てます。
特に今の子どもたちは、SNSや動画アプリから大量の情報を浴びています。その中には、事実とは違う情報や、憎しみや差別を煽る言葉も多く含まれます。「インプレッションを稼ぐために嘘をつく人がいる」という現実を伝え、情報を鵜呑みにせず、「本当かな?」と立ち止まる習慣を教えましょう。
そのためにも、Google検索で信頼できるニュースサイトなどを一緒に調べるのは有効です。たとえばウクライナやパレスチナ・ガザ地区の終わりの見えない戦争について、歴史や現状を調べるだけでも学びがあります。事実を見極め、多角的に物事を考える力がつけば、差別や憎しみに巻き込まれにくくなりますし、平和を考える一歩にもなります。

身近な暮らしの中に「平和の種」をまく

平和について考えるとき、つい遠い戦争や過去の歴史ばかりに意識が向きがちです。しかし、本当に大切なのは、子どもの身近な暮らしの中に平和の「種」をまくことです。
親が完璧である必要はありません。一緒に問いを持ち、調べ、考える姿を見せるだけで、子どもは自然と自分なりの「平和」を育てていきます。
大人になった子どもたちが、誰かの権利を奪わず、自分の権利も奪われない社会をつくろうと思えるように。そのための種まきを親や周囲の人が担うことが大切です。
「どんなあなたでも、大切だよ」。この言葉を、日々の中で伝え続けながら、子どもとともに平和を考えていきましょう。


- 安彦恵里香(あびこえりか)
- 1978年茨城県生まれ、広島市在住17年。
建築不動産の仕事を経て、24歳で国際NGOピースボートが主催する船旅に参加、スタッフとなり、環境、非核化などの社会問題解決に取り組むように。2011年核兵器について考えるアートブック「NOW!」を制作・発刊。2017年7月「社会とつながること」がテーマのSocial Book Cafeハチドリ舎をオープンし、毎月約30イベントを開催。県内中学校や高校で学生向け講演も行う。
カクワカ広島発起人、投票所はあっちプロジェクト運営、ジェンダーを考えるひろしま県民有志発起人、ひろしまのシビックプライドを考える会メンバー。前NHK中国地方放送番組審議委員長。著書に『ハチドリ舎のつくりかた〜ソーシャルブックカフェのある街へ〜」
2025年7月4日(金)
【よくある相談シリーズ】「もしも」に備える子育て防災──子どもを守るために今日からできること

地震や豪雨、台風など、自然災害はいつどこで起きてもおかしくありません。そんな「もしも」の時、大人よりも環境変化に敏感な子どもたちをどう守るか。子ども用避難グッズや家庭での備え、防災教育について、日々子育てをする親が知っておくべきポイントを、「防災士」に加え「こども・子育て防災アドバイザー」の資格を持つテレビ新広島の河野行恵アナウンサーに聞きました。

子ども用避難グッズには不安を和らげる小さな安心を

「避難所=我慢の場」というイメージを持っている方は、今も多いかもしれません。しかし最近では、被災後のメンタルケアやプライバシー確保など、「避難所でもできるだけ快適に」という考え方が広がっています。
特に子どもは、環境の変化に大人以上に敏感です。不安を感じやすい子どもたちのためには、「心を落ち着けるグッズ」が大切。普段から親しんでいるお菓子、ゲームや本、小さなぬいぐるみなどが、安心材料になります。また、子どもにはそれぞれ特性があります。アレルギーや感覚過敏などを周囲に知らせるため、リュックなどに「卵アレルギー」などと書いた養生テープを貼っておくのもひとつの工夫。ガムテープよりもベタつかず、目立たせやすいためおすすめです。本人から言い出しにくい情報を見える化することで、避難所での配慮や支援を受けやすくなります。
また、小学生くらいなら、ある程度自分で荷物も持てます。荷物はなるべくコンパクトにすることを忘れず、親のリュックに加え子どもにもリュックを用意しましょう。軽いタオルや着替え、メンタルを支える「お気に入り」を入れてあげるとよいです。
避難時、絶対に必要なのが水と食料、そしてモバイルバッテリー。特にスマホは情報収集の命綱です。加えて、忘れてはならないのが「携帯用トイレ」。地震などの災害では下水管が損傷している可能性もあるため、避難所でも「流さないトイレ」の準備が必要になります。具体的には、携帯用トイレ・凝固剤・45リットルのゴミ袋をセットで準備しておくと安心です。便器にゴミ袋をかぶせて凝固剤を使えば、断水時でも清潔にトイレが使えます。渋滞中や屋外でも使える「車でできるトイレ」も子どもにとっては心強い備えです。トイレットペーパーも忘れずに備えましょう。さらに、小学校高学年の女子には生理用品の備えや、着替えの際に使える目隠しアイテム(かぶるタイプのポンチョなど)もあると安心です。

「自宅=安全」とは限らない?!家庭で今すぐできる備えとは

災害時に家にいることが前提とは限りませんが、「在宅避難できるかどうか」の判断基準として、まず確認すべきは「自宅の立地と災害リスク」。ハザードマップを活用すれば、浸水の深さや河川の決壊リスク、土砂災害エリアかどうかも一目瞭然です。
特に注意したいのが「水の力」。水は“深さ”はもとより“強さ”が危険で、流れが強ければ家屋が倒壊する恐れも。木造住宅だけでなく、マンションでも地盤が弱い場所なら被害が出ることもあります。そこでおすすめなのが「重ねるハザードマップ」というオンラインツールです。水害・地震・土砂災害のリスクをまとめて確認できます。職場や学校、自宅周辺のリスクを一度チェックしておくとよいでしょう。

親子で楽しむ、防災への備えのすすめ

防災意識を子どもに持たせるのはなかなか難しいものです。しかし、楽しみながら自然に備えることなら、できるはず。例えば、「非常食の試食会」をしてみるのもひとつの方法です。パックご飯やレトルト食品を「防災デー」として食卓に並べてみるのもいいでしょう。
また、防災意識を育む一冊としておすすめなのが、取材漫画家の井上きみどりさんによる『あの時子どもだった私たちから伝えたいこと』(1~3巻)という書籍。漫画になっているので、とても読みやすいのが魅力です。東日本大震災で被災した子どもたちの実体験をもとに描かれており、同世代の目線から語られるからこそ、子ども自身も「自分のこと」として捉えやすくなります。この本が家にあるだけでも防災への意識づけになり、親子で読むことで、自然と話題にもしやすくなります。

今日とこれからを守る家族で始めたい防災習慣

防災は特別なことではありません。「いつもの生活に少し足す」ことから始めるのが、無理なく続けるコツです。たとえば、食品や日用品を少し多めに買う。非常食を時々食卓に並べてみる。お気に入りのお菓子を非常用バッグに入れておく。それだけでも、十分立派な備えです。
そして、「大切な家族を守るために何ができるか」という視点を忘れずに。自分が元気でいることが、子どもを守る第一歩です。また、学校と連携して、災害時の行動方針を確認したり、家族で避難場所や連絡方法を共有しておくことも覚えておきましょう。
あわせて意識したいのが、地域住民とのコミュニケーションです。日ごろから挨拶や立ち話を重ね、地域全体で助け合う仕組みを構築しておくこと。いざという時、顔の見える関係性が大きな助けになります。
防災は、がんじがらめになるものじゃなくて、家族を守るための習慣です。だからこそ、難しく考えず、日常の中に少しずつ取り入れていってほしいと思います。備えは「恐れること」ではなく、「安心して生きるため」の第一歩。あなたと、あなたの子どもの未来を守るために、今日からできることを始めてみませんか。


- 河野行恵
- 大分県出身。大学卒業後、山形テレビを経て2017年にテレビ新広島に入社。情報番組を中心に、ニュースや中継リポートなど幅広い分野を担当する。防災士、こども・子育て防災アドバイザーの資格を有し、平時からの備えや防災意識の啓発にも注力。3歳の子どもを育てる母としての視点を生かし、生活者に寄り添った発信を心がける。
2025年6月6日(金)
【よくある相談シリーズ】LGBTQ+とは? 子どもの性の多様性に親ができること

LGBTQ+に関する理解が少しずつ進んでいるとはいえ、まだまだ「わからない」「どう接したらいいかわからない」という親御さんも多いのではないでしょうか。特に、自分の子どもが性的マイノリティだと気づいた時は、戸惑いや不安が大きいかもしれません。
今回は、LGBTQ+やSOGIの基本的な考え方から、子どもの性の違和感にどう向き合えばいいか、そして差別をしない子どもに育てるために親ができることなど、性的マイノリティ当事者グループ「NINA ARICA」共同代表の木谷幸広さんに聞きました。

LGBTQ+とは何か

LGBTQ+とは、性的マイノリティに関する多様なあり方を示す総称です。それぞれの頭文字には以下のような意味があります。
L(レズビアン):女性が女性を好きになる性的指向
G(ゲイ):男性が男性を好きになる性的指向
B(バイセクシュアル):男性・女性のいずれにも恋愛・性的感情を抱く人
T(トランスジェンダー):生まれたときに割り当てられた性別と、自身が認識する性別(性自認)が一致しない人
Q(クエスチョニング):既存の性の枠組みに当てはまらない、あるいは探している最中の人
+(プラス):ノンバイナリー(男女のどちらにも分類されない性自認)、アセクシュアル(他者に恋愛感情や性的欲求を抱かない)、パンセクシュアル(性別にかかわらず人を好きになる)などを含む、その他の多様な性のあり方を包括しています
LGBTQ+の人々は「特別」な存在ではなく、誰もが持つ性の多様性の一部として理解されるべき存在です。

「SOGI(ソジ)」という考え方

LGBTQ+と関連して、「SOGI(ソジ)」という言葉も近年注目されています。SOGIは “Sexual Orientation and Gender Identity”(性的指向と性自認)の略であり、すべての人が持つ性の構成要素を示す概念です。
SOGIは以下の4つの要素で構成されます。
身体の性:生まれたときに割り当てられる性(戸籍上の性など)
性的指向:誰に恋愛感情や性的関心を抱くか
性自認:自分自身が認識する性別
性表現:服装や言葉づかい、髪型など、自分を他者にどのように見せたいか・見られたいか
この考え方の重要な点は、LGBTQ+の人だけでなく、すべての人に関係があるということです。SOGIは、性のあり方に対する一人一人の違いを認め合うための視点です。

子どもの性の違和感に親はどう向き合うべきか

性的指向が異性ではないことに気づくのには個人差はありますが、多くの場合思春期あたりだといわれています。声変わりなどの体の変化が始まると、より戸惑いが大きくなることもあります。さらにメディアでは、男性は女性を、女性は男性を好きになることが当たり前のように描かれています。そこにあてはまらない自分はおかしいのではと、心が乱れてしまうのです。
それを親に話すことは、到底できないでしょう。親がシスジェンダー(生まれた性別と性自認が一致している人)で異性愛者の場合、その価値観と違う自分に対して「悪いことをしているのではないか」という後ろめたさを感じることが原因のひとつです。これは性的マイノリティの多くが幼い頃から抱える悩みであり、自己肯定感の低さにもつながっています。
また、トランスジェンダーの子どもの場合は、小学校入学時に制服がきっかけとなる場合もあります。例えば小学校から制服がある地域では、「男の子用(女の子用)の制服を着たくない」という子どもの声に親が真剣に向き合い始めることも少なくありません。
否定せず、まずは話を受け止めることが最も大切です。初めから100%理解できなくても問題ありません。大事なのは「あなたの話を聞きたい」「あなたを大切に思っている」という気持ちを伝え続けることです。ただ、親戚の子どもや近所のお子さんという第三者ならまだしも、自分の子どものことになると、受容度の低下傾向があるというデータもあります。だからこそ、親として意識的に理解を深めることが重要です。

差別をしない子どもに育てるために、親ができること

子どもがLGBTQ+当事者であるか否かにかかわらず、多様性に触れる機会を持つことはすべての子どもにとって重要です。日常生活の中で意識できるポイントとして、言葉づかいがあります。「さすが男の子!」「女子力が高いね」といった言葉は、性別に関する無意識の偏見を育ててしまいます。褒め言葉に、男や女を意識した表現は避けましょう。親自身がジェンダーにとらわれない表現を心がけることで、子どもにもその価値観が自然と伝わります。
また、家庭を多様性に寛容な雰囲気にすることも大切です。テレビや本、日常会話で性別や見た目、人種に関する偏見的な表現があれば、「それってどう思う?」と問いかけて、「違っていてもいい」という価値観を共有していきましょう。親自身が「知らなかった」「勉強中」と正直に学ぶ姿勢を見せることも、子どもが親を信頼し、学ぼうとするきっかけになります。
子どもに差別的表現がみられた場合は、その場で「その言い方は相手を傷つけるかもしれないよ」と伝え、注意を促すことが大切です。後で落ち着いてから「どうしてそう言ったのかな?」「どんな気持ちだった?」と話を聞き、考えを深める機会をつくることも重要です。
また、子どもが差別的な言葉を使う背景には、社会構造の影響が大きいことも忘れてはいけません。差別は生まれつきのものではなく学習されたものであり、理解を深めることで改善ができるのです。

「わからない」からこそ、一緒に考える姿勢を

子どもの性で悩んでいるときは、決して一人で抱え込まないことが大切です。
恥ずかしいことでも、誰かに言いにくいことでもありません。実際、同じような悩みを持つ親御さんはたくさんいます。だからこそ、匿名で相談できる専門機関への電話や当事者グループなどに問い合わせてみてください。広島ではLGBTQ+(かもしれない)子どもとその保護者をサポートする活動をしている団体「ここいろhiroshima」がSNS上での相談も受けています。自分だけで抱え込まず、周りの支えを借りていくことが、子どもにとっても親にとっても良い方向につながります。
また「親としてこうあるべき」という完璧さを手放して、「よくわからないけど一緒に考えていきたい」という姿勢を子どもに見せることが、子どもにとって何よりの安心になります。性のあり方に正解はありませんが、「あなたのままでいい」「一緒に悩んでいこう」という親のメッセージが、子どもにとって大きな支えになるでしょう。大切なのは、性別や身体的特徴や国籍ではなく、人格や人柄なのですから。


- 木谷 幸広
- 1997年に名古屋でゲイバーを開店し、後に法人化して複数の店舗を経営。2019年から広島修道大学大学院でLGBTQ+に関する研究に取り組み、修士論文を執筆。その後、公益財団法人広島県男女共同参画財団に勤務し、LGBTスタディーズや図書イベントの企画・運営に携わるとともに、性の多様性やパートナーシップ制度について各地で講演。2023年に退職し、性的マイノリティ当事者グループ「NINA ARICA」を立ち上げ共同代表に。主催する交流会「つながり座」や、40歳以上を対象とした「おりおーて広島LGBTQ+シニアサポート」では、語り合いを通して参加者がエンパワーされ、ピアサポートし合える関係性を築ける場づくりを目指している。また、講演活動では、当事者でない人にも性の多様性について正しく深く学んでもらうことを目的に、地域社会への働きかけを続けている。2025年秋に広島県初開催となるプライドパレードの事務局長も務める。
2025年5月2日(金)
【よくある相談シリーズ】高学年ですが、泳げません。今からスイミングに通うのは遅いでしょうか?

夏が近づくと始まる学校の水泳の授業。しかし、高学年になっても泳げないという悩みを抱えるお子さんも多いのが現実です。実は、スイミングは中~高学年から始めても、むしろその時期が最適だと言える理由がいくつもあります。今回は、少し大きくなってからスイミングを習う強みを、ファーストスイミングスクールの辻村研一コーチから聞きました。

「泳げない」が気になる高学年こそチャンス

日本におけるスイミングスクールの普及は、1964年の東京オリンピックをきっかけに始まりました。室内プールの普及、高度経済成長期における教育熱の高まり、そして学校水泳の導入により、全国に3000校以上のスイミングスクールが誕生。それ以降、スイミングは長らく「子どもに通わせたい習い事ランキング」の常連です。とくに現在では、年長から小学校1年生のタイミングで通い始める家庭が多いと言われています。
ですが、すべての子どもが年長〜低学年のうちにスイミングを始めるわけではありません。中には小学校4年生、5年生、6年生になっても「まだ泳げない」「水が怖い」といった悩みを抱える子もいます。保護者の方としては、「今から始めても大丈夫なのか」「年下の子たちに混じって恥ずかしい思いをしないか」といった不安もあることでしょう。
ですが、ここで改めて強調したいのは、高学年からでもスイミングは遅くない。むしろ上達しやすく、本人の自信にもつながりやすいタイミングだということです。

高学年で水泳をスタートする3つの強み

スイミングは、単に身体を動かすだけでなく「考えて動く」スポーツです。そのため、小学校高学年から始める子どもたちは、低年齢でスタートした子よりもむしろ有利な点が多くあります。
1.理解力の高さ
高学年になると、言葉での説明を理解し、自分なりに考えて動けるようになります。
たとえば、水泳における最大の壁ともいえる「呼吸のタイミング」。顔を水から上げた瞬間に息を吸おうとすると、ほとんどの場合水を飲んでしまい、咳き込む原因になります。指導者が最初に教えるべきことは、顔を上げた瞬間には口から一気に息を吐き、その後に口から息を吸うことです。これは、子どもたちにとっては少し戸惑う部分かもしれませんが、理解力が高い学年になってくると、「どうして顔を上げた瞬間に吸ってはいけないのか?」という理由をしっかりと理解し、実践に移しやすくなります。この飲み込みの早さは、高学年ならではの強みです。
2.体力・筋力の安定
高学年の子どもは、ある程度の持久力や筋力がついているため、水中での動きにも対応しやすくなっています。少し苦しくても「もうちょっと頑張ろう」と思える精神的な粘りも備わってきており、技術の習得においても継続性が期待できます。
3.成功体験がわかりやすく得られる
スイミングは「できるようになった」が実感しやすい習い事です。
「今日は初めて顔をつけられた!」
「5メートル浮いて泳げた!」
「25メートルを泳ぎきった!」
特に思春期に水泳で自信を失いかけている本人、保護者にとっては水泳を習っての「出来た!」という感動の連続体験で、自己肯定感を得られる最適なタイミングになるでしょう。

スイミングスクールの選び方が一番のカギ

多くのスイミングスクールでは、泳力に応じた「進級システム」に基づいてクラスが分けられています。この仕組みは、年齢よりも技術レベルを重視してグループ分けするため、10歳以上でも初級レベルであれば、未就学児と同じクラスに振り分けられることもあります。
この状況を不安に感じる保護者は少なくありません。そのため、この課題に対応するスクールを選ぶ必要があるでしょう。たとえば、以下のような工夫を行っているスクールを選ぶと安心です。
●泳力に応じた柔軟なクラス編成があるか
スイミングスクールの中には、年齢や体格に配慮しつつも、泳力に応じたグループを組んでくれるところがあります。年齢に応じた理解力を踏まえた指導をしているか、まずは相談してみるのがベストです。
●コーチと直接話せる環境があるか
入会前にはぜひ子どもと一緒にスクールのフロントを訪れ、コーチに相談してみましょう。泳げない子がどういったグループに入るのか、レッスン中の雰囲気はどうか、同年代の子どももいるか…といったことを確認することで、不安が和らぎます。
●パーソナルレッスンの選択肢
グループレッスンに抵抗がある場合、最初は個別指導から始めるのも一つの方法です。基本的な技術や呼吸のコツを丁寧に教えてもらうことで、自信がつき、その後グループレッスンにスムーズに移行できます。

年齢を気にせず子どもの「やってみたい」を応援して

水泳は特別な環境(水)が必要なため、自宅では学びにくく、専門施設での習得が効果的です。ケガのリスクが少なく、安全性が高い点も大きな魅力です。集団行動に慣れることができ、協調性も育まれます。さらに、免疫力や体力の向上、姿勢の改善にもつながる、心身にとって理想的な習い事です。
また、泳げるようになることは、将来的にも大きなメリットとなります。中学校や高校での水泳授業に不安を感じずに取り組めるほか、大人になっても健康維持や趣味として続けられる、一生もののスキルです。
重ねてお伝えしたいのは、スイミングはいつ始めても遅くないということ。特に小学校高学年という時期は、理解力・体力・自発性が揃ったベストなタイミングとも言えるのです。習い事に年齢のリミットはありません。大切なのは、子ども自身が「やってみたい」と思ったときに、その気持ちを後押ししてあげられる環境をつくることです。
まずは近くのスイミングスクールを見学してみてはいかがでしょうか? コーチと直接話をして、クラス分けや進級の仕組みを聞いてみるだけでも、大きな安心材料になると思います。


- 辻村 研一
- ファーストスイミングスクール広島コーチ
大阪の老舗スイミングスクールの高校卒業と同時にコーチとして従事。社内研修担当、店舗開発部長、系列会社社長を経てファーストスポーツ株式会社を設立。全国各地のスイミングスクール運営・コーチ研修のコンサルタント業務を担う。現在は、広島市西区の「ファーストスイミングスクール」を経営しながら、コーチキャリア44年の経験を活かし、幼児から全国大会出場選手まで幅広く水泳指導を手がける。