子育てアドバイス

【よくある相談シリーズ】子育てにイライラして、「毒親」になっていないか心配です。

私って、「毒親」じゃないよね?…自分は違うはず、とは思いつつも、ふと不安になって誰かに確認してみたくなった、そんな経験があるでしょうか。

「毒親」という言葉が広く一般に知られるようになり、そうした親のもとで育った人たちの体験が様々な媒体で語られるようになったことで、気づかない間にわが子にとって「毒親」になってしまっていたら…という不安を口にする人が増えたように思います。

時々、親としての在り方を省みたり、自分の言動が子どもにどう受け止められ、どんな影響を与えているのか、ふと立ち止まって考えてみたりすることは、自覚のないまま不適切な関わりを行ってしまわないためにも、とても大切な姿勢だと言えます。

しかし、不安にかられた人たちの話をよく聞いてみると、たまたま自分に余裕がない時期に子どもとぶつかってかなりキツイ言い方をしてしまったとか、最近他のことでイライラしていて、気づけばつい子どもにあたってしまっていたとか、カッとなって子どもの言い分も聞かず感情的に叱ってしまったことがあるとか、子育てにおいて誰もが一度は経験しているような単発的な苦い失敗の影響を過剰に案じてしまっていることも少なくありません。

たとえ、傷ついた子どもから「毒親」という言葉をぶつけられることがあったとしても、執拗に子どもの尊厳を傷つけ続けていたわけではなく、また、日頃から子どもとの間に確かな信頼関係が築かれているのであれば、それほど心配することはないでしょう。あとから、自分でもさすがにあの時は言い過ぎたとか、あの態度は大人気なかったなどと反省したのであれば、親も完璧な人間ではないことを伝えて素直に謝ればよいでしょう。多少バツの悪い思いをすることもあるかもしれませんが、自分に非があったと感じた時に、それを素直に認めて謝ることができるのは、親としても人生の先輩としても、カッコイイことなのではないでしょうか。

気がかりなのは、むしろ、親も子もまったく疑いをもっていない時なのかもしれません。一般に、「毒親」と呼ばれる人々は、自分が子どもに与え続けた負の影響について省みることはなく、たとえ大人になった子どもや、カウンセラーなどの専門家から指摘されても、なかなか自身の非を認めることができないことが知られています。また、そうした親のもとで育った子ども自身も、大人になってからも親ではなくむしろ自分自身を責め、苦しみ続けるケースが少なくないのです。親も子も現実に向き合えないまま、ネガティブな在り方が家庭の中で固定化し、大人になってからも子どもの苦しみが持続して、そこから抜け出せないことこそが、いわゆる「毒親」問題の一番厄介なところなのだと思います。

それを「毒親」の呪縛と捉え、そこから解き放たれた当事者が、気づきを促す意味を込めて手記などを公表しているケースもあります。しかし、インターネット上にあふれる様々な情報に接する際には、その全てを鵜呑みにしないよう努め、冷静に情報を見極めることも必要です。親子関係がうまくいっていなかったりこじれたりしている家庭の親が全て「毒親」というわけではありませんし、当事者のことを何も知らない第三者が「毒親」と呼ばれる人々をモンスターのように扱い、一方的に非難することもまた望ましくないでしょう。

私たちひとりひとりが、「毒になる」親についてできるだけ正しい知識を持ち、その問題を真剣に考え、地域・社会全体で向き合っていくことによって、苦しむ子どもに少しでも早い段階で気づき、その心身の健康を守ったり、世代間連鎖が起こるのを防いだり、「毒親」と呼ばれるような親を生まない社会にしていくための策を講じたりしていくことができるかもしれないのです。
●子どもにとって「毒になる」親とは…
『毒になる親』の中で、著者スーザン・フォワードは、「毒になる」親には様々なタイプがあることを挙げつつ、それらの親が共通して、子どもたちに「罪悪感や自己不信などのネガティブな遺産」を負わせてしまうことを指摘しています。どのタイプの親に育てられた場合でも、子どもたちは、総じて「自分に対する基本的な自信」が持てないまま大人になり、生きていく価値を見出せない状態になると言うのです。つまり、子どもに、本来は抱く必要のない罪悪感を植え付け、将来にわたって自己肯定感を持てない状態に追い込むトラウマを与えるような親が、「毒になる」親であると言えます。

同書の中では、暴力を振るう親、残酷な言葉で傷つける親、義務を果たさない親、性的な行為をする親など、いわゆる身体的虐待、精神的虐待、ネグレクト、性的虐待にあたると思われるような事例の他に、絶対的存在として君臨し続け、死後も影響力を及ぼし続けて支配する「“神様”のような親」や、常に子どもに干渉し、自分のコントロール下に置いておこうとする「コントロールばかりする親」の例なども挙げられています。

その「毒」が家庭の外からは見えにくく、親も子もそれが子どもの人生に深刻な負の影響を及ぼすような関わりだとは意識しないまま、不健全な在り方が家庭の中で常態化し、次第に子どもの心身を蝕んでいくような親子の関係に警鐘が鳴らされていることに心を留めておく必要があると思います。

例えば、「残酷な言葉で傷つける親」の場合も、ひどい言葉や汚い言葉で露骨にののしるような分かりやすいタイプだけでなく、一見するとユーモアのような形をとりつつ、家族の中の特定の子どもだけをあざけりのターゲットにした冗談が日々執拗に繰り返されることで、その子が屈辱感を味わう状況が家庭内で日常となり、結果的にその後の人生に負の影響が生じるようなタイプも含まれています。

「毒になる親」の特徴としては、常に自己中心的で、子どもの気持ちより自分の気持ちを優先し、自分の考えが間違っていることは認めようとせず、「自分の考えに合うように周囲の事実をねじ曲げて解釈しようとする」ことが指摘されています。子どもたちが、成長の過程でこうした「ねじ曲げられた事実」を、本当の事実との区別もつかないままに自分の中に取り込んでいくことで、人生の様々な局面で無意識のうちにその影響を強く受けた言動をとってしまい、それがしばしば子どもの人生に負の影響をもたらすことになるわけです。

とりわけ「言葉には出さないで表現された親の考え」には注意が必要であることが指摘されています。家庭の中の「言葉にされることのないネガティブな信条」や「無言のルール」は、子どもが自分でも気づかないうちに自分の中に取り込み、身についてしまいます。そして、無自覚なまま、次の世代に同じことを強いてしまう可能性もあるのです。そうしたものの例としては、「父親よりも偉くなるな」「母親をさしおいて幸せになるな」「親の望む通りの人生を送れ」「いつまでも親を必要としていろ」「私を見捨てるな」などが挙げられています。

また、心身の問題を抱えている両親が、常に自分のことで精一杯となり、親としての責任を果たすことができなかったケースでは、神経質で子どものような行動をとる父親を、いつも母親に変わってなだめ、世話する役割を日常的に強いられていた子どもが、そうした日々の中で、悪意はなくとも、両親から「お前は私たちにとって重要な存在ではない」というメッセージを受け取ってしまい、結果的に、その後の人生に深刻な負の影響が生じてしまったというケースが紹介されています。

「毒になる」親は、理解不能の存在に思えたでしょうか。それとも、「毒になる」親の特徴が自分や自分の親にも当てはまる部分があるように感じて不安を覚えたでしょうか。不安や懸念を覚える場合には、電子書籍も出ているので『毒になる親』に目を通してみるとよいかもしれません。また、同書は大人になった子どものケアの立場から書かれた本ですが、「毒になる」親の側にも、その一人ひとりと向き合ってみれば、きっとそれぞれに不適切な関わりに至る事情や経緯があることでしょう。「毒親」に苦しむ子どもを一人でも減らすためには、地域・社会による、既に不適切な関わりを行ってしまっている親に対するそれぞれの事情に応じた適切なケアや、「毒親」と呼ばれるような親を生まないための取り組みも重要となってくるでしょう。
●「毒親」にならないために…
「毒親」にならないために、私たち一人ひとりはどのようなことに気をつけておけばよいのでしょうか。基本的なことですが、まずは、子どもをきちんと一人の「人」として扱い、その人格を尊重する気持ちを持つことです。どんなに幼くとも、一人ひとり異なる人格をもった「ひとりの人間」です。たとえ親子であっても、その思いや考え、価値観は、必ずしも一致するとは限りません。無意識のうちに子どもを自分の思い通りにコントロールしようとしたり、親の独りよがりの“良かれ”で子どもを縛ったりしないためには、子どもの言葉によく耳を傾け、子ども自身の考えや価値観を理解するように努め、尊重する姿勢を持つことが重要です。それは、何でも子どもの言いなりになるということではなく、互いの思いを率直に伝えあい、折り合える点を見出していくということです。

また、子どもに対する無意識の「毒になる」言動を防ぐためには、親自身が、自分の心や現実としっかりと向き合っておくことも、とても重要でしょう。自分の中の満たされない思いを自覚することや、つらい現実をありのままに受け止めることは誰にとっても苦しいものですが、自分がその苦しみから逃れるために無意識のうちに子どもを利用してしまうことだけは避けなければなりません。

『毒になる親』の中には、例えば、親としての自分にしかアイデンティティーが持てず、子どもが独立して自分が必要とされなくなることへの不安を抱えているために、子どもへの過干渉を続け、幼い頃から「非力感を植え付け」、大人になってもそれを持続させようとしてしまう親が紹介されていますが、親自身が自分自身のそうした不安に気づけておらず、また子どもへの不適切な関わりや将来にまでわたる負の影響についても直視できていないことが、事態の打開を妨げる要因となってしまっています。自分一人では難しい場合には、専門家のサポートなども受けながら、親自身が、自分の問題から目をそらしたりすり替えたりすることなく、常に自分で向き合う覚悟を持ち、対処していく姿勢で臨むことが重要だと言えます。

「子どものため」と言いながら、自分の歩みたかった人生を無理に歩かせようとしたり、自分もできなかったような努力を強制したりしていないか、そして、自分の意のままになっている時だけ愛情を与え、逆らえば罰を与えるような関わりを行ってしまっていないか、時には自分を振り返ってみることも大切です。また、子どもの無垢な善意に甘えたりつけこんだりして、当たり前のように過剰な奉仕を強いていないか、自分の楽しみやちょっとした憂さ晴らしのために子どもを利用していないか、省みることも必要でしょう。

子どもに対して、親としての健全な期待を抱いたり、一般的な親孝行を求めたりすることと、子どもをどんな時も意のままに動いてくれる人形のように扱ったり、常に親の欲求を満たすためだけに存在しているかのように扱ったりすることとは、全く異なります。自分でも無自覚なまま、〝子を思う親心〟を隠れ蓑にする形で、子どもに不必要な罪悪感を抱かせ、真綿で首をしめるようにして子どもを追い詰めていくことだけは避けたいものです。
●地域・社会に求められていること
「毒親」による不適切な関わりが家庭内で生じていても、はた目には非常に分かりにくいケースも多く、また、子どもが大人になって心身の不調や、生活あるいは人間関係上の問題を抱えるようになるまで、またはそうなってさえ、親子ともに問題を自覚できないままであることも多いため、今まさに「毒親」に苦しんでいる子どもを救い、世の中から「毒親」をなくすことはそう容易なことではありません。

それぞれの家庭で、親が自らの言動を自戒することだけでは限界があり、こうした問題ほど、地域・社会全体で取り組んでいく必要があります。既にある虐待防止の仕組みを活用しながら、子どもや親からのSOSや相談に応じていくことはもちろん、各家庭の状況に応じた「毒親」にさせないためのより細やかで柔軟な予防的支援が求められていると言えます。

問題意識をもっていない親子や家庭の問題の芽に気づき、深刻な影響が生じる前に手を差し伸べることには非常な困難が伴いますが、何とか皆で知恵を絞って、次世代を担う子どもたちの健やかな育ちを支える環境を整えていく必要があるでしょう。

親自身が心身に何らかの問題を抱えているようなケースでは、子どもに対する責任を積極的に放棄しようと思っていなくても、自分自身が精一杯で、結果的に子どもをおざなりにしてしまったり、子どもに大きな負担を強いてしまったりすることもあるでしょう。そうした家庭においては、まずは親の心身をケアし、子どものことに心と身体のエネルギーを注げるようにするサポートが求められるでしょう。

また、自分の心を満たすため、過干渉で子どもを追い詰めているにも関わらず、自分ではあくまでも子どもをサポートしていると思い込んでいるようなケースや、悪いとも思わずに軽い気持ちで子どもを執拗にからかい、傷つけ続ける親やそれを容認している家族の場合には、意識改革が必要でしょう。苦しむ子どもを増やさないためには、親になるずっと以前の子どもの頃から、多様な価値観に触れられる機会をもうけるとともに、年齢に応じた形で少しずつ、言葉にされない形で他者に考え方や価値観を刷り込まれたり、コントロールされたりする危険性について伝え、それを回避したり心身を守ったりする術についても教育しておくことが必要なのだと思います。

今まさに「毒親」に苦しんでいる子どもにとっては、こうした取り組みを通じ、自分が従っているルールや価値観だけが唯一絶対ですべてはないと知る機会があることは、「毒親」の呪縛から解き放たれるきっかけにもなり得るかもしれませんし、その子が大人になってから、気づかないうちに自分の子どもにも同じ関わりを行ってしまう無自覚の世代間連鎖を防ぐことにもつながる可能性があります。

核家族化が進み、地域のつながりも希薄化した現代においては、子どもたちが閉じた家庭で育つことも増え、家庭とは異なる価値観やルールなどを学ぶ機会も激減しています。結果として、家庭内で何らかの不適切な関わりを受けた際にも、どこにも逃げ場がない状況に追い込まれやすくなっています。

近年、こうした状況を打開するため、地域・社会の中で様々な取り組みがなされていますが、まずは、地域・社会に生きる私たち一人ひとりが、子どもを持っていても持っていなくても、同じ地域に生きる子どもの育ちに関心を持つことからはじめ、家庭が地域に開かれていくための雰囲気を醸成していくことが、今最も求められているのかもしれません。

参考文献
『毒になる親』電子版 スーザン・フォワード著 玉置悟訳
2013年 毎日新聞社
加藤美帆
広島女学院大学 人間生活学部
児童教育学科 教授
一般社団法人
日本ホスピタリティ教育研究所 理事
博士(教育学)修士(心理学)
専門分野:発達心理学、教育心理学

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