横田めぐみさん拉致から40年

11/1(水) 19:15

15年前(2002年)の4月、横田めぐみさんの母・早紀江さんから言われた。
「このような(拉致事件)悲惨な事実があることを多くの人たちに伝えてください。どうかよろしくお願いします」

当時、北朝鮮拉致事件に対する日本国内の関心は高いとは言えず、拉致被害者家族が町で署名を求めても1時間に1人応じてくれるかどうかだったという。その責任の一端はマスコミにある。拉致が北朝鮮の犯行と裏付ける材料がないため、報道することを躊躇した。

そうした状況にもかかわらず、早紀江さんはマスコミへの不満を一切漏らさず、冒頭の言葉を私に投げかけた。
それから5か月後、日朝首脳会談が開かれ、北朝鮮が拉致の事実を認めた。その年の10月には5人の拉致被害者が帰国した。
しかし、横田めぐみさんの姿はそこになかった。

横田めぐみさん(当時13歳)が北朝鮮に拉致されてから今年で40年、広島で横田さんら拉致被害者を題材にした舞台劇「めぐみへの誓い―奪還―」が上演(10月31日)された。市内の小学生や高校生、市民ら約530人が観劇し、拉致被害者救出への決意を新たにしていた。

今回のような地道な取り組みは、形をかえて各地で行われている。拉致被害者の帰国に向けた具体的な道筋が見いだせないだけに、被害者家族にとって心強いものだろう。

日本政府が何もしていないわけではない。国連はもちろんのこと、G7サミットなどの各国際会議、首脳会談などのあらゆる外交上の機会を使って、拉致事件についての問題提起を行い、諸外国からの理解と支持を得てきた。

だが、北朝鮮は核実験や弾道ミサイル発射を強行し挑発をつづけた。2016年2月、日本政府が独自に対北朝鮮制裁の実施を決定したところ、拉致被害者を含むすべての日本人に関する調査の全面的中止及び特別調査委員会の解体を一方的に宣言してきた。それ以来、北朝鮮が拉致事件について真摯に取り組む姿勢はみられず、被害者家族の苦悩は深い。

北朝鮮との間で膠着状態が続いていることもあって、拉致事件に対する国民の関心が低くなっているような気がしてならない。いや、それだけが理由ではない。ニュースとして取り上げられるケースが減っている。関心が低くなったのは報道する側の責任が大きい。横田早紀江さんの要望に応えきれていない、己の努力不足を恥じるばかりだ。

横田めぐみさんが帰宅途中に拉致されたのは11月15日(1977年)だった。
あと2週間で、またその日がやってくる。
肉親にとって、時間はあの日から止まったまま。

11月5日に来日するトランプ米大統領が拉致事件について、どのように言及するのか、被害者家族は注目している。私たちも、自分のこととして、一言も漏らさず耳を傾けたい。

拉致事件を時の流れのなかに埋没させてはならないのだ。

(箕輪 幸人)