【岐路に立つ書店】#12 近所の人が自然と集まる いつ迄も心の拠り所でありたい 女性店主の思いに迫る

3/19(木) 20:00

特集シリーズ「岐路に立つ書店」です。
2003年度まで全国に2万軒あった「本屋さん」は半減し、1万軒を割り込もうとしています。
番組では、そんな中今も商店街に3軒、本屋さんが残る尾道市因島を長期間、取材しています。
今回は本を買う人も買わない人も自然と集まる1軒の店に迫りました。

《土生商船アナウンス》
「毎度、ご乗船ありがとうございます。間もなく土生港に到着しますので忘れものございませんよう、ご支度願います」

「造船の島」として栄えてきた因島。
その島の南側にある土生地区にはどこか懐かしい風情が漂う商店街が…。
ここには今も「町の本屋さん」が3軒営業しています。
1軒1軒に密着すると、「町の本屋さん」の変わらない温もりと店主の懸命な努力なしでは経営が成り立たない現状が見えてきました。

【せとうち書房・小野ひとみさん】
「シックストーンズ?」
「知らん!!」
「笑っているところばかり撮ったらだめよ。このおばさん、馬鹿じゃないかと思われる」

今回は、本を買わなくても店を訪れた人が笑顔になっていく1軒の本屋さんが主人公です。

【小野さん】
「宵闇の大阪は二人づれ恋の街♪ありがとう!」

「せとうち書房」の店主小野ひとみさん。
日中、本屋さんではなく…近所でカラオケを楽しんでいました。

【小野さん】
「よく来るんよ、暇だから」


店はというと…通常通り営業しています。

【小野さん】
「濱田さんの歌が聞きたかった」
【せとうち書房・濱田国男さん】
「僕は留守番です」

「せとうち書房」はいま小野さんと店番担当の濱田国男さんの2人で切り盛りしています。

【小野さん】
「赤字でするのはしょうがないでしょう。笑って言わないとしょうがない。でもそれはいいです。それはそれで、どこも赤字だからうちのところだけじゃないんだからと思います。でも借金はないんですよ。ゼロです。借金。だからやっていける」

【小野さん】
「余分に持ってきたよ。お腹空いたじゃろうと思ったから」

本を買っても買わなくても、きてくれる「常連さん」のための喫茶コーナーがよくできます。

【小野さん】
「ウェルカム。去る者は追わず、来るものは拒まずだからね…」

高齢化が進む島で、家に話し相手がいない「常連さん」も少なくありません。

【常連客】
「ひとみさんがいつも笑顔がいっぱいだからみんなに好かれるんですよ」
「話をしに寄って帰ったら気持ちがいいんですよ。相手をしてくださるので嬉しいですよ。私は」
「そういってくれたらうれしいわ」
「それは事実よ」

島の人にとってせとうち書房は「本屋さん」を超えた大切な居場所です。

【常連客】
「老人ホームみたいなものですよ。年寄りも面倒を見てくれるし」

サービスの度が過ぎると店番係の濱田さんがブレーキ役になってくれます。

【濱田さん・小野さん】
「やりすぎじゃねえと思いますよ。本業を忘れているんじゃないかと思う」
「してあげるのもいいことだけど」
「ダメ?」
「商売しよんじゃけえ」
「そうじゃねえ」
「それが一番」
「私がうんうんと聞くけど聞かない!」
「その通り!」
「疲れるわ!」
「疲れるね、困ったね」
「役にたったらいいよねってそれがいけんのよね、濱ちゃん」

それでも、小野さんは「ビジネス」の枠に縛られたくありません。

【小野さん】
「きょうね、炊き込みしたんよ!どうする?何時でもいいよ!」

手渡したのは、本ではなく小野さんお手製の炊き込みご飯でした。

【常連客】
「いただいていいのかなと自分でも思いつつ。島の中でもなかなか見ないくらい優しい方です」

【濱田さん】
「小野さんのあれじゃけ、ああいう人じゃけえ」

目の前の人を笑顔にしたい。その純粋な気持ちは本を売って買うだけの単純なことではないのかもしれません。

1969年に創業したせとうち書房。
元々、本が大好きだった小野さんの夫・明敏さんが結婚後に始めた店でした。

【小野さん】
「島でこんなに賑やかなところがあるんじゃって思いましたね。そのころはよく売れていたね」

当時、因島は造船で活気に満ちていました。

【小野さん】
「主人がおったときは主人が全部していたから、私、お金の面も何もしていない。(明敏さんは)寂しかったのか知らないけどやっぱり続けてくれと言われた」

明敏さんは50代半ばで病に倒れ闘病生活の末、帰らぬ人となりました。
小野さんが1人で困っていたときボランティアとして手伝ってくれるようになったのが常連だった濱田さんでした。

【小野さん】
「(1冊あたり)すごく利益が少ないから給料まで払ってまでというのはできない。ご飯だったら私が一緒に食べるから、作るからあーんしてあげられる」

年齢を重ねるに連れいつまで店を続けられるか、経営面以上に体力面の不安が押し寄せてくるようになりました。

【小野さん】
「いつやめようか。いつやめようか。本屋さん」

島の人の「居場所」を守りたい気持ちと割に合わなくなってきた「本屋さん」という立ち場の間でどうすべきか揺れ動いています。

【濱田さん】
「世話になっているからその恩返しじゃないけど、どういう風にやったらいいか、なかなか年齢が年齢だからね。そう言ってはいけないんだけど」

小野さんが本の配達に出かけると、濱田さんが1人で店番です。

小野さんがいないせとうち書房はとても静かです。

【小野さんの娘・植田 睦さん】
「あけましておめでとうございます」

新年早々、小野さんの娘・睦さんが大阪から帰ってきました。

【植田さん】
「人が良すぎるんでね。困ったもんなんです。どうもなくない!濱ちゃんがおるからこそよ」

久々に対面した睦さんの目には涙が浮かんでいました。

【植田さん】
「なんか色んなことを思い出した。お父さんが亡くなったときのこととか1人で濱ちゃんが来る前やっていたじゃん」

母が店を続けられている。思いが交錯します。

【小野さん・植田さん】
「(本屋さんを)継ぐのはだめ。こんな状態で継いだら食べていけれんわな。いけれんと思う。
「みんなのために続けたほうがいいかなとは思う。ここに集まるもんな」
「もうピリオドを打ちたいなと思っている」

そう遠くない将来、決断をしなければならない時がやってくるかもしれない。
でもその時までは島の人たちの心の拠り所であり続けたい。
「せとうち書房」は、きょうも近所の人が集う居場所となっています。