夏の風物詩『稲川淳二の怪談ナイト』のプロモーションで、稲川淳二さんが来広!

ニッポンが誇る怪談界のレジェンド・稲川淳二さんが、ミステリーナイトツアー2025『稲川淳二の怪談ナイト』のプロモーションのため、来広されました。
>>>昨年の夏に喜寿を迎えられ、ますます舌好調ですね。

おかげさまで、ミステリーナイトツアーも33年目。昨年の喜寿ツアーでは全国50公演を完全走破いたしましたが、今年はさらに増えて全国52公演を予定しています。毎年こうしたプロモーションのたびに「今年は面白いですよ!」と言っていますが、今年の話は、格別に面白いです。私の怪談は、ゼロから作るわけではなく、心霊探訪の旅で集めた話の破片がたくさんあって、その中から印象に残っている話を思い出しては、「この話にはこれが合うな」と組み立てていくわけですが、今年は、怪談らしい怪談ができあがりました。
>>>具体的に、どんなお話でしょうか。

たとえば、田舎のおじいちゃんが子どもたちを集めて話をするわけだけれど、最初はそんなに怖くなくても、話を聞いているうちにだんだん怖くなってきて。ようやく怖い話が終わってちょっとほっとして、おじいちゃんがじゃあなと言って去った後、最後にドーン!と怖さが襲って来るような話。そうですね。色にたとえると、夕闇のブルー。想い出があって、懐かしさがあるような。でも怖い。そんな話。あとは、都会の普段の生活の中で、ちょっと一息つきたいなぁと思うようなゆらぎの時間。そんな時に、そんなこと、自分もあるかも。あったかも。そういう状況になったらイヤだなぁと思うような話。アングルの怖さですよね。それに気づいた瞬間、鋭い剃刀でピシャッと切られるような話。そして、中学時代のあいつ、どうしているかなぁ。昔、こんなことがあったなぁとか思い出して、そこへたまたま行ってみると…という怖いけれど、懐かしくて味わいのある話。怖さと味わいのバランスという意味では、私の怪談人生の中でも屈指の出来栄えです。とにかく、去年より86倍、楽しい怪談になると確信しています。怪談は、身分・性別の差別・区別がない。怪談の怖さは、女性だから、男性だからではない。みんな平等に同じように襲ってくる。エライ人も威張っていられない。まさに、ダイバーシティ、多様性の世界ですよ。
>>>今年も、工房でお話をまとめられたのでしょうか?

例年通り、茨城県の工房にこもって、怪談話をまとめました。普段は4月から工房に入るのに、今年は3月から工房に入りました。工房は海を見下ろす高台の別荘地にあるんですけど、最近は空き家が目立ってきて、辺りは真っ暗。明かりがぽつんぽつんとあって、雰囲気があるんです。そんな工房で怪談をまとめていると、私も世界に入っていける。それが楽しいんです。工房には、スタッフが代わりばんこで来てくれるわけだけれど、今年は、スタッフ以外にも誰かもう1人いたんですよ。ポルタ―ガイストがすごく起きた。誰かの声がするから、私も老化が進んで空耳が聴こえるようになったのかと最初は思ったけれど、違う、これはポルターガイストだと。そんな工房に寒い時期から住み込み、50日以上かけて話をまとめました。旅のミステリーを書いた松本清張は、時刻表で旅をすると仰っていましたが、私は今回、いろんな人に手紙を書いて、手紙でもって心霊探訪の旅をしました。だから、今年のは、イケますよ。楽しんでいただけるんじゃないかと思っています。
>>>怪談の魅力について、改めてお聞かせください。

怪談の面白さは、人情が絡んでくるところ。怪談には、恨みや因縁もあるけれど、温もりがある。ミステリーやホラー映画とは全く異なること、怪談のやさしさや楽しさを知って欲しいですよね。テレビ局でも怪談を知らない人が、番組を作っていることがある。大相撲はジャパニーズプロレスではない。大相撲とプロレスを一緒にされたら、冗談じゃないと思うでしょ。怪談の文化を忘れないで欲しい。私のファンは、その辺をちゃんと理解してくれていますから有難い。私は、ファンのみんなが大好き。だから、ライブをやっている時が一番楽しい。楽しすぎてノッてくると大きな声を出してしまうから、去年は声が出なくなっちゃった。発声練習をしたら、余計に声がひどくなっちゃって。だから、昨夜、マツダスタジアムにカープの試合を見に行ったんだけれど、スタッフがうるさいんですよ。「喉をつぶしたらいけないから、くれぐれも球場で騒がないように」だって。スタッフにはいろいろ言われていますが、私も歳を重ねてますます妖怪らしくなってきましたし、まだまだこれからです。だんだん妖怪になっていく自分が大好き。なんてったって、「後期交霊者」ですからね。楽しすぎても大声を出しすぎないように用心しながら、頑張ります。
>>>稲川さんが怪談を語るときに、工夫されていることは?

私が怪談を語るときのポイントは、難しい言葉を使わないこと。そして、何よりも臨場感を大切にしています。そのためには、話を文章で覚えるのではなく、話を映像に変換して、景色・状況で覚えることです。その景色・状況の中を自分が歩きながら、あるときはAさんの立場で、あるときはBさんの立場で、その日その時に見たもの、感じたものを語るわけです。自分も絵を描く方の人間だから、物を見る角度によって、見えなかったものが見えてくる。道端に咲いた花が見えた日もあれば、見えなかった日もある。ある意味、きちっとしていないけれど、角度を変えて見ても話は成立している。状況の説明ばかりになっちゃうと臨場感がないし、押し付けになっちゃうから面白くない。そんなところですね。
>>>心霊写真のコーナーも一新されるそうですね?

デジタルの時代になって、心霊写真が少なくなりましたが、今年は、古いモノクロフィルムの心霊写真を入手できました。フィルムは、温度を持っている。人間の皮膚に近い。フィルムメーカーが、化粧品を開発していますでしょ。それぐらい、フィルムは、人間と似ているんです。デジタルの写真は、拡大してみると、記号・信号になっている。だから、奥行きがない。フィルムの写真は、拡大してみると、えっという世界があることがある。フィルムやポラロイドの方が、そういう確率が高いです。数名の人が映っているわけだけれど、1人だけ透けて見えることがある。パソコンのない時代、二重写しのない時代に、どうしてこういうことが起きるのか、分からない。私は、心霊写真が届くと、どういうアングルで撮影されたものなのか、平面図を書いて分析することだってあります。すると、答えが出ることもあるし、分からない世界もいっぱいあります。奥深いし、面白いですよ。だから、このツアーも飽きません。毎年やっていて、自分が楽しいんです。舞台セットも毎年変わりますし。今年のセットは、昭和の時代から令和の今まで続いている東京下町の駄菓子屋。駄菓子屋の爺のところに来てくれた子ども相手に怪談話を披露する設定ですね。例年、初日まで舞台セットを見ないけれど、今年もきっと話と合うと思いますよ。広島公演は、9月14日。敬老の日イブですね。会場でお会いできることを楽しみにしています。