シリーズ「岐路に立つ書店」#11 待てど暮らせどお客は来ない 親子で営む「町の本屋さん」に密着

3/12(木) 20:00

特集シリーズ「岐路に立つ書店」です。
いま、全国的に「町の本屋さん」の減少が続いています。
番組では長期間、尾道市因島の商店街を取材しています。
今回の主人公は高齢の母親を支えながら店を切り盛りする親子の姿を見つめました。

「造船の島」として栄えてきた因島。
その島の南側にある土生地区にはどこか懐かしい風情が漂う商店街が…。
ここには今も「町の本屋さん」が3軒営業しています。
1軒1軒に密着すると「町の本屋さん」の変わらない温もりと店主の懸命な努力なしでは経営が成り立たない現状が見えてきました。

【因島書房・楠見剛さん】
「着いたよ。きょうも張り切って店番しようで!」

3軒の書店のうち、きょうは高齢の母親を介護しながら店の価値を追い求め続ける1軒の本屋さんが主人公です。

1964年創業の因島書房。

【因島書房・楠見剛さん】
「本当にないですね。仕事が…」
「表にお客さんがいないか見てきますね」

日中、待てど暮らせど、なかなかお客さんはやってきません。

【楠見さん】
「(カメラの)フィルムが勿体ないような気もしますけれども」

取材スタッフを気遣ってくれる因島書房の2代目楠見 剛さん。
何かを察知しました。
突然、店の外へ走り出します。

【楠見さん】
「本が来とるよ」

追いかけた先にいたのは、「常連さん」でした。

「用意しておきます。すごいね、手押し車の音で分かります」
(急に走ったから何かと思いました)
「これよくあることですよ。取り置きのお客さんが来ていないと思ったから」

顔なじみの「常連さん」に本が届いたことを知らせるための全力疾走でした。

【楠見さん】
「木戸さんは楽しみにしているみたいなんでね。買ってもらうというか買ってもらって持って帰っていただく楽しみ…そっちのほうが楽しいですかね」

「常連さん」が別の買い物から戻ってくるのを待ちます。

10分後。

【楠見さん】
「あんた!このおばはん撮んなんな」
「このままでええ?」
「ここに放り込んどいて!」
「じゃあ、おつり持ってきます」
「だいぶ楽しめるね、これで楽しめるね」

本を大切にしまい、帰っていきました。

【常連さん】
「一つのことが分かったら全部わかってくる、な!じゃけえ面白いんよ。またな!」

【楠見さん】
「こうやって持って帰ってくれて本を利用していることがもし元気につながっているんだとしたらありがたいですよね」

瀬戸内に浮かぶ島・因島。
かつて「造船の島」として栄え、因島書房の通りもにぎわいを見せていました。
ただ、時代の変化と共に書店に立ち寄る人は少なくなっています。
今は売り上げのおよそ6割が予約客や配達先といった固定客が占めます。

【楠見さん】
「残った本を次回にこれだけ余るんだったら次からこれだけ減らそうって。本当は残らないのが一番いいんですけど」

(おはようございます)

楠見さんの朝は店の掃除から始まります。
人口減少が進んだとは言え、1日平均で60冊の本が店にやってきます。
仕分けが終わると、慌ただしく車に乗り込み別々に暮らす母・育子さんを迎えに行きます。

【楠見さん】
「一時、体力的にも精神的にも辛い時期もあったが、ある日それを通り越して開き直りと言うんですかね」

「迎えに来ましたよ!」

育子さんは87歳。靴下を履いたら一緒に出勤です。

【楠見さん】
「介護の素人ながら…なるべく自分でさせてあげたほうが…閉められる?半ドアじゃ」
「調子ええよ!きょうもその調子で頼むよ」

店の奥のレジが2人の定位置です。

【常連さん】
「おはようおばちゃん!久しぶりじゃん!」

店が開くと「常連さん」が挨拶に来てくれます。

【楠見さん】
「(育子さんが)こういう風に店に来ることによって挨拶してくれたり声をかけてくれたりするじゃないですか。本人のためになりますしね。自然なデイサービスみたなもんですかね」

普段は保育士の仕事をしている楠見さんの妻・恵美さんとの結婚も「因島書房」の常連さんの紹介がきっかけでした。

【楠見さん】
「田舎で3軒本屋が続いているというのは、効率を求めているんじゃなしに賃金を求めているわけでもなく、他に求めているもの、いただいているものが違うから田舎ではこういう風に本屋の形態が残っているんじゃないですかね」
「何気ない日常の疲れているときのお客さんの笑顔とか一言だとか、お金でない本人にとってもらうとうれしいもの、もらっているじゃないですか」

「本屋さん」として人に恵まれてきました。
だからこそどんな状況でも前を向こうとしてきました。

【楠見さん】
「おばちゃん、配達行ってくるからね」
「びっくりするじゃん」
「配達行ってくるから、お客さんが来たら息子がちょっと出ているからすぐ帰ると言ってね」

楠見さんが本の配達に出かけるとき、いつも育子さんが1人で店番をします。

【母・育子さん】
「あの子がいなかったらお店は続いていないでしょうね。毎晩夜中まで頑張っていますよ」

配達中も店番をしている育子さんが気がかりです。
近場の「常連さん」に本を届けたら一旦急いで様子を見に戻り、また配達に出かけます。

【楠見さん】
「大丈夫、ただいま。よかった。何事もなくてよかったですね」

【常連さん】
「おばちゃーん」

店の経営と育子さんの介護。
両立しようとすればするほど気持ちが追いつかないときがあると言います。

【楠見さん】
「あまりにも大変すぎて寒いのが分からん。慌ただしくて。あしたあさってのことが気になってね。他のことが考えられん」

それでも、客と接しているときだけは…。
表情が戻ります。

【楠見さん】
「取り置きしていた本を渡せて、たぶん本人は希望のものが入ったからいいことをしたかなと、それが結果この笑顔かね」

そんな楠見さんが限られた時間をやりくりして続けていることがあります。

【楠見さん】
「いつもの通り9時半までの男じゃけえの、1時間しかない」

長年続けてきた卓球の指導です。

【因島書房・楠見剛さん】
「フォア、バック、回り込み」

顔を出せるのは週に1度、たった1時間ほどしかありません。
だからこそおすすめの練習方法に徹しています。

【因島南中学校卓球部】
「丁寧に教えてもらえたからもっと強くなれたと思います」
「(楠見さんの仕事は)本屋さん」

【楠見さん】
「喜ばれるのであれば…あの笑顔を見ました?あれがね元気をくれるんですよ。店を開けないといけない」

効率と利益だけがすべてではないはず…
一球一球、一冊一冊、そして一人一人に全力で向き合います。

【楠見さん】
「もっと稼いでやろうもっと大きくしてやろう効率よくしよういうのは、それはビジネスに走っているような気がするんですよ。そうでなくて、目の前の人の声を聞いたり笑顔を見るにはどうすればいいのかなというのが大切だと思いますけどね」

町の「本屋さん」の温もりは、「使命感」と「やりがい」で守られているのかもしれません。