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【広島から伝えたい】水道復旧に動いた父が死亡、うわさに苦しんだ息子 「災害関連死」を知らない人へ

04/30(火)  10:42 掲載

西日本豪雨災害から9か月を迎えました。広島県の犠牲者133人のうち、24人は「災害関連死」です(4月6日現在)。災害のたびに繰り返される災害関連死は、遺族の申請も「弔慰金目当てと周囲に思われるのではないか」など心理的なハードルが高いといいます。豪雨で被災した地域の復旧のため動いた父を突然亡くした男性は、実際に根も葉もない噂に苦しみ「父の名誉を回復したい」と申請を決めました。

「地域の人が困るから」水道復旧のため動いた父、災害直後の死

「ここにあるタンクがうちのお父さんが直そうとしていた水道設備で―」
広島県神石高原町の門翔也さん(28)が向かうのは、父が最期まで守った大切な場所です。

豪雨災害直後の去年7月9日、翔也さんは父の信夫さん(60)を亡くしました。死因は、心臓突然死でした。心臓に持病はなく、災害によって心身へ負担がかかったことが原因とみられ、災害関連死に認定されました。

7月6日夜の豪雨によって自宅の裏山が崩れ、信夫さんは、福山市の親戚の家に一時、避難していました。しかし、地域の5軒ほどに水を供給している水道施設が土砂によって壊れ、修理のために8日の朝、1人で神石高原の自宅へと戻りました。湧水を利用する水道施設は、地域住民のために、造園業をしていた信夫さんが中心となって15年ほど前に自宅の裏山に造り、管理をしていました。

翔也さんは当時をこう振り返ります。「(行くのを)止めたのは止めたんですけど、父は『水が止まってしまっては地域の人が困る』と1人で帰りました」

翔也さんは、亡くなった父の思いを継ぎ、1週間後に手探りで水道を復旧させましたが、炎天下での作業は想像以上に体力を消耗したといいます。

「28歳でこんだけしんどいので60歳のうちのお父さんが暑い中作業していたって考えたらだいぶ身体に負担がいっていたんだと思いますね…」

父の机から見つけた家族写真、根も葉もない噂に苦しんだ息子

信夫さんが亡くなったのは、自宅の寝室でした。

翔也さんは「眠るようにもがいたような感じもなくお医者さんの話ではそんなに苦しむことなく逝ったんだという話だったんでそこだけは良かったと思います」と静かに語りました。

7月9日の朝から信夫さんと連絡が取れなくなり、福山に避難していた翔也さんも、急いで家に帰りましたが、信夫さんは既にベッドで眠るように亡くなっていました。寝室は、ほとんど当時のまま片付けられずにいます。

翔也さんが会社の事務所を整理していた時、信夫さんの机から意外な物が見つかりました。翔也さんの結婚式、子どものころ…紙に包まれたたくさんの家族写真でした。

「見つけたときは、父に愛されていたんだなと。亡くなる前は男同士なのでそんなに会話はなかったんですが、見つけたときは後悔だったりとか色んな思いがあふれました。でも、愛されていたんだなっていうのが一番感じましたね」

しかし、その後近所で「信夫さんは将来を悲観して自殺したらしい」という噂が流れていることを翔也さんは耳にしました。父を亡くした悲しみに加え噂に苦しんだ翔也さんは、父が最後まで地域のために頑張ったことを知ってほしいと「災害関連死」への申請を決めました。

「根も葉もないことをいろいろ言われたりして悔しかった。どうにかして災害で亡くなったということを証明して父の名誉を回復をさせてあげたい。それが一番の最初の思いでした」

災害のたびに繰り返される「災害関連死」を防ぐには

災害関連死とは、豪雨などの災害後、持病の悪化や復旧作業による疲労などが原因で死亡することを指します。県内では、西日本豪雨の後、これまでに20人以上が亡くなっています。2011年の東日本大震災での災害関連死は3701人(去年9月30日現在)、2016年熊本地震では、直接死の4倍以上となる220人にも上りました(3月13日現在)。

災害のたびに同じ問題が繰り返されている現状に対し、豪雨災害で災害医療チームDMATとしても活動した専門家は、関連死の症例を医療機関などが共有することや、被災者の体調の変化を地域でケアする仕組みが必要だといいます。

福山市医師会の浜田史洋監事は、「しんどそうだねとか、何か辛いことがあるんですかということを拾い上げることは誰でも出来ると思う。それをどうやってきちんとまとめ上げて『医療』というその人を救うところまで持っていけるか。これを形にできるかというのが災害関連死を防ぐための1番大きな解決策ではないかと思います」と話します。

豪雨災害をうけて、福山市医師会では、災害関連死の原因の1つとなる血栓を、超音波で診断する技術を普及させるために医療関係者向けのセミナーを開いています。

浜田監事は「動脈硬化が進むとコレステロールがこの壁にデコボコができちゃう」「(関連死は)もともとあった病気が悪化する場合と新たに起こる場合2種類ある。元々あった病気が悪化する場合は、その治療が滞るとかいろんなストレスが加わることによって悪化する。新たに起こる場合は、睡眠不足であったりとかいろんなストレスによって起こってくる」

父の死を通して知ってほしい「災害関連死」を知らない人へ

復旧作業をしていた信夫さんを災害関連死で亡くした息子の翔也さんは、父の死を無駄にして欲しくないと、今回の取材を受けることを決めたといいます。

「災害関連死を知らない人にもうちの父のケースを通して知ってほしい。もしかして、うちもそうじゃないのかとか、気づいてもらえる人が増えてくれたら良いなと思います」

災害関連死は、それぞれの自治体に申請し、弁護士や医師などで作る審査会で認められれば、生計を支えていた人は500万円、その他は250万円の弔慰金が支給されます。
 
しかし「弔慰金目当てと周囲に思われるのではないか」など心理的なハードルが高いと言います。さらに、市町村が認定する際の統一的な基準はなく、対応は、自治体ごとにばらつきがあるのも課題となっています。遺族からの声をしっかりと拾い、その関連死の実態を広く共有することで、救えるはずの「命」を救うための教訓にしなければなりません。



この記事はテレビ新広島とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。西日本豪雨の被害の実情と復興の過程を、地元メディアの目線から伝えます。

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