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【広島から伝えたい】情報弱者が災害弱者に 高齢者を「強制避難」させるカギはテレビ?学生の挑戦

01/31(木)  09:27 掲載

各地で未曽有の被害を出した、西日本豪雨災害から半年が経ちました。広島県内では、浸水や土砂災害などで犠牲となった人のうち、身元が判明した人の約半数が60歳以上でした。改めて避難の重要性が叫ばれるなか、災害時に避難が遅れやすい「災害弱者」とされる高齢者を助けようと、情報技術を活用した新しい防災システム作りに奮闘する大学生たちの挑戦を追いました。

 広島市立大学が開催する「事業発表会」。最新の研究成果などを紹介する展示ブースで、いま注目を浴びている研究チームがあります。高齢者を強制的に避難させる解決策として目を付けたのは、家庭用のテレビでした。

「このシステムが5年前の災害の時にもあれば…」

彼らが取り組んでいるのは、防災モニタリングと災害時の情報伝達システムの開発です。

広島市立大学にある「モニタリングネットワーク研究室」。ここでは大学生と大学院生が中心となって、インターネットなどの情報技術を活用した、新しい防災システムの研究を行っています。

きっかけとなったのは、5年前に広島市で発生した大規模土砂災害でした。

西正博教授は言います。「何か我々の技術で市民に貢献できないかと。地域の方から危ない所を見たいというのがありましたので、そこをカメラで撮ってリアルタイムな情報を配信するというシステムを作りました。」

開発したシステムは、自立式の赤外線カメラを使って川や砂防ダムを24時間監視し、インターネット上で共有する仕組みで、1ヵ所あたりおよそ10万円と安く設置できるのも大きな強みです。

現在、広島市内の6ヵ所で試験的に導入されていて、監視映像を大学のホームページで公開し、近隣住民へ情報提供を行っています。

モニタリングカメラの定期的なメンテナンスは欠かせませんが、災害時には近づけない危険な場所をいつでも確認できるとあって、去年7月の豪雨災害では、住民が避難するきっかけとなるなど、一定の効果を発揮しました。

(河内地区自主防災会連合会・杉田精司さん) 「(7月豪雨災害の時画像は?)見ました。相当水が出ましたよ。みんなこれがあるということで防災意識が、自分の身は守らなきゃいけないと、情報が入るでしょ。」
(西正博教授) 「ここまで見に来るのも大変ですしそれが見れるというのは大分いい。」
(河内地区自主防災会連合会・杉田精司さん) 「遠隔で見られるのはありがたい」

一方で課題として浮き彫りとなったのは、パソコンやスマートフォンを上手く扱えないいわゆる『情報弱者』への対応でした。

「情報弱者」が「災害弱者」になってしまう、解決のカギはテレビ?

総務省の統計によると、世代別のインターネット利用率は、60代以上で大きく低下し、70代ではおよそ47%、80代ではわずか20%と、世代間の情報格差は大きくなっています。

また避難情報はサイレンや防災無線のほか、メールなどで通知されますが、高齢者は大雨ではうまく聴き取れなかったり、メールの内容を十分理解できずリアルタイムの危険情報が伝わっていないという背景もあります。

研究室の大学4年生、児玉大空さんは、高齢者への効果的な危険情報の伝え方について、探ることにしました。解決策として目を付けたのは、家庭用のテレビです。

小型のコンピュータと通信技術を応用して、緊急時にテレビの画面を遠隔操作で、モニタリングカメラの映像に切り替えようというアイデアです。

「見ていただかなければいけない状況をコチラで提示させていただいて判断して早期避難につながればいいかなと考えています。」(児玉さん)

11月上旬、システムの改善点などを洗い出すため、話し合いが行われました。

(児玉さん) 「高齢者の方にターゲットを絞ったときに、最も効果的なツールはテレビだと私は考えました。こういうのがあれば早期避難に繋がるんじゃないかというのをみなさんからいくつか挙げていただきたい。」
(学生) 「なるべく早い段階でどこに避難したらいいかというのがわかるほうがいい。」
(学生) 「大雨警報とか洪水警報が出てるとか避難理由が出てくるじゃん。今こういう状態にあるというのも画像だけでなく文字としてあってもいい。」
災害から命を守る重要なシステムだけに、学生たちの議論は尽きません。

被災を目の当たりにしたからこそ、学生たちの挑戦は続く

12月に入り児玉さんは、ある場所へ向かいました。
「実際に被災された方にアンケートをとりたいなと思いまして。避難することの重要性を普通の人たちよりもわかっていると思うので、そういう人たちに実際に意見を聞くことが大切かなと。」

訪れたのは豪雨災害で大きな被害を受けた呉市天応地区。被災地の住宅を1軒1軒まわって、聴き取り調査を行いました。被災した高齢者からはさまざまな意見が集まりました。
「情報のときに音が出ますよね。あれがあったらドラマを見ていても何かしら?とみるから、やっぱりああいう音が出るのがいいですね。」
「危険場所の監視画像ですよね。これがあればいいかなとは思いますよね。」
「(避難準備情報とか避難勧告とかが出たことは?)それは必要と思いますね。いままではそんなのがなかったからピンと来なかったけど強い言葉がいると思う。」

調査のなかで触れた被災者の生々しい声…そして未だ大きな爪痕が残る、被災地の現状も目の当たりにしました。

「全部流されていて被害の凄まじさを改めて感じましたし、かなり酷い状況になって初めて避難しようと思っている人が多いからこそ強制的に避難してもらえるようなシステム作りが重要かなと思いました。」(児玉さん)

児玉さんが考える新しいシステムが少しずつ形になってきました。行政から出される防災メールを自動で解析し、避難勧告などの発令をきっかけに強制的にテレビ画面を切り替えるよう改良を加えました。

システムは、テレビの電源が切れていても、地上波放送を視聴していても、コンピュータさえ動作していれば実行可能です。高齢者の注意を引かなければ「早期避難まではこぎつけられない」と児玉さんは話します。

将来的な実用化を目指して、児玉さんは3月の卒業までに実証実験が行えるよう、現在も試行錯誤を続けています。

「高齢者の人が見て良いねと、これだと避難しますと言ってくれて初めて出来たことになると思うのでそこまでなんとかしたいですね。」


この記事はテレビ新広島とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。西日本豪雨の被害の実情と復興の過程を、地元メディアの目線から伝えます。

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